第257話 死神


「ダメだ、多分そいつはエリーを苛めるように言った張本人なんだ」

「ロブ、それはどういうことなの? ちゃんと話して!」


 ロブが息を殺すように呟く。

「ここじゃ……話せない」


 人は少ないとはいえ、冒険者ギルド内だ。聞かれたらまずいことなんだね。



「わかった。移動しよう。歩ける?」

 ロブが頷いたので、私たちは外へ出た。

 しかし今日はお祭りだからどこもかしこも人が多い。



 どうしよう、どこへ行ったらいい?

 モカのシークレットガーデンなら、誰にも聞かれないからそうしようか?


 ちらりとドラゴ君を見ると、ダメだと首を振っていた。



「ロブが予約してくれていたお店は? 少し遠い?」

「いや……、でも表通りで人が多い」

 そっか、パレード見られるって言ってたものね。



「裏道に入って、ロストインザダークで人除けしてくれる?

 それからならいい考えがあるから」


 それをドラゴ君に確認すると、絶対に離れないことを約束してなんとか頷いてくれた。



 それから私たちは裏道に入った。

 あまりいい思い出はないけど、少しでも早くロブから情報を聞いてシーラちゃんを助けに行かなくちゃ。



「ロブ、お願い」

闇に紛れよロストインザダーク


「エリー!」

 ドラゴ君の叫び声がして、気が付くと私とロブしかいなかった。

 いやそれは正しくなかった。


 私たちの前に黒いローブの魔導士が立っていて、攻撃魔法を放っていた。

 それはロブに直撃し、彼は倒れてしまった。

「ロブ!」



「そいつは魔族で使えるからな。せいぜい役に立ってもらわなきゃならん」

「どうしてこんなことを!」

「どうして? それはこっちのセリフだ。

 お前のせいで我々が必要とする人間が集められなくなったからな」

「それってまさか……」

「去年、お前のせいで我々の奴隷集めが滞った」


 この人、あの時の奴隷商人の仲間なんだ……。

 枯れ枝のように痩せた男の顔が狡猾そうに嗤った。



「ロブを操っていたの?」


「操る? いいや、判断が鈍るよう混乱させただけだ。

 下手な魔法よりずっとバレにくい。

 こいつは自分の気持ちの赴くまま、お前に助けを求めた。

 吾輩はそれを見越して罠を張っただけさ。

 そしてお前が死んで絶望することでこいつは我々のいい傀儡かいらいになる」


「そんなことさせない!」


 すると魔法士は狂ったように笑い始めた。

「ベルがお前は危険だと言っていたし、我々の損失の落とし前をつけてもらうつもりでディクスンを動かしたが、そんな弱い魔力でどうやって吾輩を倒すというのだ?

 所詮、人間は虚勢を張って、数の力頼みしかないのだ」


「あ、あなたも人間じゃない!」

「そうだ、吾輩も元は人間だった。

 だが人間どもに搾取され、馬鹿にされ、信頼できると思っていたものにすら裏切られて、ヒトであることを止めた」



 魔法士の男がローブを剥ぐと、そこには骨しかなかった。

 顔は擬態だったのだ。

「リッチ? ダンジョンの?」

 鑑定する余裕がない。当てずっぽうで言うと相手が答えてくれた。



「いいや、吾輩は死神グリムリーパーだ」

 グリムリーパーは禍々しい魔力を呼び出すとそれは黒い大鎌の形になった。



しくも吾輩もお前と同じ錬金術師でテイマーであった。

 死するときにリッチになるかグリムリーパーになるか聞かれてグリムリーパーを選んだ。

 こちらならば死んでしまった吾輩のかわいい従魔たちも使えたからな」



 そういってグリムリーパーは、召喚魔法陣を地面に転写し、魔獣を呼び出した。


 その従魔は鷹系の魔獣だったのだろう。

 今は骨ではっきりとしないが。

 グリムリーパーにはネクロマンサーとしての力も備わっている。



れ、レッド!」

 レッドと呼ばれた鷹の骨は私に向かって飛んで来て、火魔法を放ってきた。

「アイスウォール!」

 氷の壁を作ってよけたが、グリムリーパーは愉快そうに笑った。

「アハハ、その程度か?」


 レッドはさらに私に火魔法を放ってきた。

 水魔法で対処したが、相手にダメージを与えることはできなかった。



 今日はワンピースのおかげで防御力は頭のリボンカチューシャぐらいだ。

 サンクチュアリやシールドで身を守っても、魔力切れと同時に死ぬし、アンデッドは聖属性魔法しか効かない。

 でも私にはビアンカさんの杭がある。

 これを打ち込むことが出来れば、倒せるはず。


 レッドは素早い魔獣だった。

 このまま魔力だけで応戦してはそのうち捕まってしまう。



 レッドは私が避けるのに業を煮やしてか、魔法攻撃を止めて直接私の体をついばもうとした。

 初めは目を狙ってきたがカチューシャの防御で守られていたので次は肩を狙ってきた。

 それを避けなかったのでくちばしが私の左肩に刺さった。

 痛かったが私はその機を見逃さなかった。

 同時に聖属性の杭をレッドの頭蓋骨に突き刺した。


「何!」

 レッドはそのまま滅して消えていった。


 私はサンクチュアリをかけて、肩をアクアキュアで癒した。

 浄化できたアンデットからの傷は、普通の怪我と同じだからだ。


「フハハハハハ、なるほど。弱いなら弱いなりの戦い方があるということか」



 私はサンクチュアリの中で、ビアンカさんに言われた通りマスターを呼んだ。

 ドラゴ君やモカやミラやモリーを呼んだ。

 でも誰も現れなかった。


「ああ、助けが来ないのが不思議か?

 ロストインザダークは単純な魔法だが強い魔力を持つものほど目に留まらないのだ。弱すぎて感知しずらいんだ」



 そんな……、そういう盲点があるのか。



「そうだ、お前には吾輩の新しいおもちゃで遊んでやろう。出でよ、キュメラよ」


 そういうとまた地面に召喚魔法陣が現れて、そこから魔獣が飛び出した。



 クマの体から黒い蛇の頭としっぽが出ている。

 前に聞いたロックグリズリーとシャドウブラックマンバのキュメラ?

 いいや違う。


 黒い蛇の背中に蝙蝠の羽。

 そしてよく知った顔と、赤・緑・黒と色の変わる瞳。



 キュメラは、ギーブルのシーラちゃんだった。


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文章力がなくて説明が足りず、申し訳ありません。

キュメラはアンデッドではなく、いろんな魔獣を掛け合わされて作られた魔獣です。


グリムリーパーは元人間の錬金術師で、アンデッドになり果ててからも生きていたころの能力が使えるので、錬金術でキュメラを製造し、テイムしたのです。

(第140話 席順で、アンデッド化について前述しております)


誤解があったようなので補足させていただきました。

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