第253話 錬金釜を使って


 部屋に戻ると、モカとミランダが私に寄ってきた。


「ねぇ、エリー、明日何着てくの?」

「何っていつもの恰好」

「じゃないでしょ! デートなんだからかわいくしてくのよ!」


「でも午前中はお菓子屋さん手伝うし……、冒険者ギルドも行くし……」

「だからって、ロブと一緒の時間は当分過ごせないのよ? 

 いい思い出残したくないの?」

 そうか……、ドレスの写真欲しいって言ってたしな。



「わかった。ワンピースぐらい着る」

「ふふふ、言質取ったわ。エリーの代わりにあたしたちで決めといたわ。これよ!」



 モカがじゃーんと取り出したのは、見たことのない薄紫色のワンピース。

 襟にリボンがついていて、そこにロブの目の色の石が嵌ったブローチがついていた。


「モカ、これどうしたの?」

「ブローチはロブが用意。

 それにあわせて、あたしたちがビアンカさんに頼んでワンピ作ってもらったの」

「もう、ダメじゃない! ビアンカさんは新緑祭の舞踏会のドレスで大忙しなのに」

「いい気分転換になったって言ってたわ。もちろん費用はロブ持ちだから」


 余計ダメじゃない。絶対高いよこれ!



「あのね、シーラを預かってくれるお礼の一つだからって。

 受け取ってあげないとロブが気にするわ」

 うっ、そこを突かれると文句言えない。


「シーラちゃんが来てくれるのは私にとってご褒美なんだけど」

「そう思うのはエリーとあたしたちだけだから。ロブは本当に困ってたと思うよ」

 それは、そうかもしれない。



 それで口をつぐんだ私に、

「エリー、それより万年筆やろうよ」

「そうだね、ドラゴ君」

 もしかしたら、直接手渡しできるのは明日で最後かもしれない。



 初めは細工で万年筆に石を取り付けようと思っていたのだけど、今日の授業でまさかの錬成もやったから、それを活用することにした。


 まずは錬金釜の使用なんだけど、はじめから本番は大変だから、違うのをやってみよう。



 錬金窯の使用方法は、教科書に載ってるやり方でいいか。

 ふむふむ、まず術者の魔力を流し込み起動させる。


 それで錬金釜についている魔石に、私の魔力を送り込んでみた。

 結構魔力食うな。


 10分ほど送り込んで出来ました。



 それから練習の素材……。

 そうだ、昔ハルマさんとシンディーさんにもらったスライムの魔石がたくさんある。


 これに合成して、付与して、何か作ろう。

 モリーに装備を作ってあげたい。



 私が錬金釜に10個入れたら、もっとくださいと釜から頭に伝わった。

 えっ、喋るんですか?


「エリー、窯は喋るんじゃなくて足りないことを伝えただけだよ」

 ドラゴ君が補足説明。モカとミラもうなずいている。

「そ、そうなんだ」

 それを喋るっていうんじゃないの?



 とにかく気を取り直して、もう10個入れたけど足りなくて、袋ごとざざざーっと入れた。

 結局全部入れたら、初めていいと伝わった。


「合成」

 すると釜が光り始めて、たくさんあった魔石が1つの魔石になっていた。

 よし成功。



 次は付与だ。

 モリーはもともと小さいから見つかりにくいけど、もし見つかってしまったときに戦える力があった方がいい。


 ドラゴ君は力が強いから、カバンを贈った。

 モカには沈黙と防御と追跡と隠蔽の魔石つきの首輪を贈った。

 ミラにもモカと沈黙だけ抜いたおそろいの首輪をつけてある。



「モリー、あなたにこの魔石でなにか身に着けるものを渡したいの。

 でもどこに何をつければいいかわかんないんだけど」

 するとモリーはフルフルって震えた。


「エリー、モリーはエリーのカチューシャみたいにいろんな力が付与してある輪っかが欲しいです、だって」

 あんな感じかぁ。



 なら魔石が7ついる。

 今もってない……いや、ある。

 ダンマスにもらったザクザク宝石。あれ使えばいい。



 私はクローゼットにある制服に近寄った。

 制服には私のかけられるだけの付与魔法をかけてあり、ダンジョン攻略にも着ていこうと思っていた。

 もしものときの切り札に母さんのマジックバッグが縫い付けてある。


 マジックバッグに手を入れて私のディアレストと同じ、ダイヤモンド・エメラルド・アメジスト・ルビー・エメラルド・サファイア・トパーズの小さなものを出してほしいとイメージした。

 手を抜いて開くと、そこにとっても小さな7つの宝石が乗っていた。



「エリー、それ宝石じゃない」

「持ってたの忘れてたぐらいだけど、せっかくあるんだから使おうと思って」

「ふーん」

「忙しさにかまけて私の宝物みんなに見せてなかったね。今日はダメだけどそのうち見せるね」

「「「うん」」」


 

 それから私たちは宝石に魔法を付与し始めた。

 エメラルドの風はミラと一緒にやった。


 一緒に手(ミラは前足)をのっけて、魔力を中に注ぎ込む。

 私の魔力とミランダの魔力がまじりあって風の魔石になる。

 うん、今日の授業でもできたし、うまくいきました。


 ルビーとアメジストをドラゴ君に火と闇、もう一つのエメラルドをモカに樹を一緒に入れてもらった。水と土は私一人で、聖属性はモリーはいらないけどお揃いにした。

 

 なんか一緒に魔石作るの楽しいな。

 


 それから全部を錬金釜に入れて、イメージする。

 イメージは指輪だ。


「錬成」

 さっきの合成よりも長く光り、出来上がったのは透明な魔石の輪っかで6つの属性魔石が等間隔に嵌っていた。


「出来た!」

 出来たけどどうつけるの?



「モリー、これでいい?」

 私がモリーに差し出すと、モリーは体の一部を伸ばして受け取り、体の上部にはめ込んだ。

 指輪のつもりだったけど、サークレットみたいになった。

 すると輪っかが見えなくなってしまった。


「消えちゃった!」

 するとモリーはフルっと震えてもう一度出してくれた。

 収納できるんですね。

 モリー、驚きすぎて思わず敬語になっちゃったよ。



 それからモリーは体を指のように伸ばして、先端に火をつけたり、風を起こしたり、水を出したりした。

 土や闇や樹の魔法は使わなかったが、きっと使えるんだろう。



 すると、ドラゴ君とモカとミランダが目をキラキラさせてこちらを見ていた。

「ぼくも樹魔法欲しい!」

「あたしも他の属性欲しい」

「にゃにゃにゃ~」


「そうだね、みんなで魔石作って装備してみようか」

「「「うん(にゃー)」」」

「じゃあ、今度宝物見せるときに、気に入った石に付与しようよ。

 とりあえず明日のロブとシーラちゃんに会ってからね」


「シーラにも他の属性あげようよ」

 それ、いい考え。

 シーラちゃんにも好きな石選んでもらおう。



 ふふふ、まさかこんなことが出来るとは思わなかった。

 モリーが頼んでくれたおかげです。



 おっと、忘れるところだった。

 ロブの万年筆も錬金釜でつくったよ。

 ちゃんと不壊、盗難防止、使用者限定を付けました。


 あんまり高く見えるとダメかなと思ったんだけど、窯が万年筆と買ってきた闇の魔石は全部と黒曜石を2粒いうのでそれを入れると、つややかな黒のボディーにギーブルクリップ付きのデザイン通りに仕上がった。

 デザイン画の勉強してよかった。

 絵にするとずっとイメージが浮かびやすくて、成功率が高まる。


 それに前よりずっと高価に見えます。

 でも下っ端従者にいいのかなぁ。



「ロブはお金持ちだし、いいんじゃない?」

 モカの一言でそれを贈ることにした。

 ロブ、万年筆喜んでくれるといいな。

 明日が楽しみです。



 もう1本の万年筆は、次の機会に使おう。



 ヴェルシア様、錬金術すごく面白いです。

 頑張っていろいろ作ります。

 これからもどうか私たちを見守ってくださいませ。



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エリーが作ったのは魔法を付与した石で、付与した魔法しか使えません。

でも付与した力を失っても、再度付与できます。

モリーのためにドラゴ君は着火、ミラは送風、エリーは水を出す魔法を付与してます。


魔法陣もその魔法陣の持つ決まった魔法しか使えません。

しかも1度きりなので、いろいろな魔法が使えるように複合して使います。

かなり複雑になるので、陣魔法士や錬金術師は頭がよくないとできないとされています。



授業で使っている精霊石は属性魔法の力が天然で備わっていて、その属性を持っていない人が呪文を唱えると様々な魔法が使える。言わば万能なのです。

でもその力を使い切ってしまったら使えなくなります。




2023/8/5 錬金窯→錬金釜に変更。

鍋っぽいものをイメージしていたので釜だと気が付きました。

全てを見返す時間がなく、サブタイトルに使っていたこちらだけの修正ですが、徐々に直せて行けたらと思っています。

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