第233話 メルの情報
卒業式が近いということは、私たちの進級試験も近いということだ。
メルが青ざめて、どうしようというので一緒に勉強することになった。
メルのネックは古代語だ。
私たちの班が私とクライン様のレベルに上がってしまったため、メルが付いていくのがやっとという感じなのだ。
ダイナー様は専門の先生を付けてもらうことになったらしい。
それでメルの勉強を見るついでに、前々からの約束のリアの染物工場を見せてもらうことになった。
私も染物は授業で一色染めだけはやった。
その方法で従魔たちのマフラーを染めた。
でもリアの家は糸の染めもするけど、布の柄染めが基本なのだそうだ。
「エリーったら遅い!こんなに来るのが遅くなるなんて思わなかったわ」
「ごめんね。いろいろありすぎてなかなか来れなくて。これお詫び」
それで手づくりのお菓子を渡すと、受け取ってくれたけど、
「心配したんだからね。死んじゃったって聞いてホントびっくりしたんだから」
「それ、いまだになんでそんな間違いが起こったのかわからないんだ。
学校には意識はないとは連絡したんだけど」
「でも元気になってよかったね。
私も魔力量が何とか行けそうだから、試験受けられるの。必ずエヴァンズ入るから」
「うん、待ってる」
メルが支度してくると自分の家に戻っている間に、
「メルに近寄っている女の子いないよね?」
「ごめん、あんまり見てないんだ。私、休み時間も働くことになったから」
「聞いた。貴族の従者って大変?」
「仕事は大変じゃないけど、気疲れしちゃう」
「だよねー」
それで待っている間、柄物の染色作業を見せてもらうことになった。
「ウチでやっているのは型絵染と手描き染めよ。両方を組み合わせることもあるわ」
「下地が白の時はいいと思うけど、濃い色の場合はどうするの?」
「先に柄の方を染めて、その部分が染まらないように糊をのせるの。乾かしてから地色を染めて糊を洗い流すと出来上がり」
「なるほど」
「今やるのが、型絵染よ」
リアのお兄さんが布に柄を切り取った型を当てて、染料をのせていく。
穴の開いた部分だけ染まるので、それが柄になる。
「柄によっては均一でないといけなかったり、逆に濃淡だしてともいわれるの」
「難しい工程だね。手が変わると雰囲気変わるものね」
「そうよ。だから1つの布は同じ職人が担当するわ。だから広い場所もいるし、職人も必要なの」
「うん」
リアのお兄さんが木の板を紙でできた型の上を滑らせると、染料が均一に乗っかる。手早い作業だ。
「もうじきデビュタントだから生地作り大変なの」
「うん、ウチのクランもドレスの注文入り始めている」
ああ、1級裁縫師試験もある。
デザインどうしよう。
「メルも縫えるから、早く手伝いたいのよ。でも試験がね」
「今日ある程度道筋付けて、自分で復習してもらって後はわからないことを聞いてもらえばいいわ」
「わかった。今日は私も一緒にいるから」
「うん」
リアは私とメルを2人にしたくないのだ。
それまではあんまりわからなかったけど、今は私もロブが他の女の子と二人きりなんて嫌だから。
例えそれが友情だろうと、勉強だろうとね。
でもあんまり妬くと嫉妬になって、ロブに嫌われてしまうかもしれない。
気を付けよう。
勉強の途中、メルが私に聞いてきた。
「エリーって1級裁縫師目指してるんだって?」
「うん。どこで聞いたの?」
「裁縫ギルドにエヴァンズの男子の制服で、試験を受けにくる10歳ぐらいの女の子なんて一人しかいないでしょ」
「隠してたわけじゃないんだけど、ほら色々あったからメルにあんまり近寄らなかったし」
「古代語と工芸しか一緒に受けないし、あの授業喋る感じじゃないもんね」
「うん」
「裁縫師試験、やっぱり難しい?」
「2級までは言われたものが時間内に縫えれば何とか通るけど、1級は突然レベルが上がるの。オリジナルのデザインか、すばらしい手芸技術か、またはそれ以外の能力を示さないといけないの」
「そっかー、エリー行けそう?」
「全然、どうすればいいかわからない」
「僕ちょっとだけ聞いたんだけど、学院の図書館に服飾の資料が揃ってるんだって。学校卒業すると簡単に入れないから今のうちに見とけって言われてるよ」
「でも学院じゃないし」
「友達いるんでしょ。お茶会行ったって」
「ああ、ハインツ師のお弟子さんたちね」
「一緒に行けばいいんだよ」
うーん、あの方々はお忙しいから、ソフィアか、ロブと行けばいいんだ。
でも学院の中だもんなぁ。気を付けないと。
メルも裁縫師試験を受けたいそうなんだが、学校優先って言われてるんだって。
結構遅くまで講習あるもんね。
「メルは2年になっても錬金術科志望のままなの?」
「古代語さえ落ちなければそのつもり。落ちたら付与魔法専門にするけど。
工芸って自分と違うジャンルでもやると面白いからね。鍛冶はさすがに興味ないけど」
「リアは?何学部志望になるの?」
「あんまり魔力強くないし、侍女・メイド科かなぁ。染料の調合で薬師も出てるから薬師もいける。あと錬金術科も気になるけど」
リアは錬金術師はジョブに出てないのだけれど、薬師や技師が出ているので希望すれば錬金術科を受けることが出来るそうだ。
「薬師がいいと思う。錬金術科はきついよ。僕と同じクラスじゃないしね。
侍女・メイド科は貴族にだいぶ媚びないといけないらしいし、裕福な平民じゃないと厳しいみたいだよ」
そうなんだ。ユナは女優になるからいいのかな?
「そうよね。じゃあもしかして今エリーだけが女の子なの?」
「一応そうだけど、男装してるからみんな少年って感じ」
色っぽい感じは皆無です。心配しないでください。
「でもあのユナって子が女優なんてね」
リアが意外そうに言ってきた。
「次の役も決まったみたいよ。セリフはないけど歌を歌うんだって」
「ユナって地味な顔してるのにね」
メル、ユナのことそう思ってたんだね。
リアだけが満足そうに頷く。
「ユナってお化粧ですごくきれいになるの。美人系も可愛い系もどっちもいけるのよ」
「へぇ~」
あっ、メル興味持っちゃ駄目。
リアがイラッとするから。
「さぁさぁ、おしゃべりはこの辺で勉強に集中!」
話変えよう。それが安全。
でもメルにいいこと教えてもらった。
学院の図書館ね。
それならビアンカさんの知らないデザインの参考になるものがあるかもしれない。
ヴェルシア様、お導きありがとうございます。
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この方法はヨーロッパの染め方ではなく、先日テレビで見たのれんの染め方です。
日本式の染め方ですが、とてもイメージが強かったので採用しました。
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