第212話 モリーを受け入れて


 クライン様のとりなしで私とモリーは形だけではない家族になった。



 いつもはクランの食堂で夕食を食べるけど、今日は私たちだけでいたかったので寮の部屋に連れ帰った。

 初めにドラゴ君が小さな籠に布を敷いているものを自分のベッドの横に置いた。

「ここ、モリーの場所だから。おいで」


 それでモリーがその籠の中に入ると、

「ぼくはドラゴ。エリーの従魔でこの中では一番お兄ちゃんだよ」

「あたしモカ、一応歌って踊れる聖獣よ。なんでも聞いてね」

「にゃーにゃ。にゃ」

 多分あたしミラ、よろしくと言ったんだろう。


 3匹がめいめいモリーを撫でて、挨拶終了。



 ドラゴ君がモカの頭の上にモリーを置いて頷くと、モリーは体を光らせた。


「ドラゴ君、モリーはどうしたの?」

「モリーは聖属性なんだ。だからモカの腐ったところを治癒してって頼んだの」

「腐るっていうのはそういうのじゃないって何回も言ってるじゃない!」


 ちょっとだけモカがプンスカしてたけど、うん平和です。



「モリーは何を食べるの?」

「何でも、だって」

「モリー、お皿は食べないは出来る?」

「……出来ます、だって」


 ドラゴ君が通訳してくれたので、私はモリーにみんなと同じ食事を出した。

 でももっと欲しかったみたい。

 私が捨てようとした野菜くずや魔獣の骨も食べたいとのことだったので渡すときれいに食べていた。



 食べている間は、いつもの3センチぐらいではなく大きく伸びて体に取り込んでいた。

 おもしろいなぁ。


「ねぇ、みんなもモリーやシーラちゃんみたいに大きくなったり、小さくなったりできるの?」

「うーん、ぼくは今はムリ」

「あたしも」

「にゃ」

 ドラゴ君、モカ、ミランダはムリみたい。


 でもモリーは、1メートルぐらいまで大きく広がって見せた。すぐにいつもの3センチに戻ったけど。

「すごいね、モリー。そんなに広がれるんだね」



 ドラゴ君がモリーにいろいろ聞いてくれた。

「モリーは体を変形もできるし、固くなったり、色を変えたりも出来るんだって」

 さすが特殊個体。


「でも魔法は聖属性と無属性だけだよ。攻撃には適してないみたいだ」

「ドラゴ君と逆だね」

「そうだね。ぼくは治癒魔法は使えないから。

 ああ、でもモリーのホーリーライトは弱いアンデッドなら通用しそうだ」

 それは心強い。



「モリーは聖属性だから、ソルちゃんとも仲良くなったんだね」

「そうみたい」

「いいなぁ、あたしも聖属性だったら今頃聖女クマだったかも」

 ふとソフィアのようなシスターの格好をしたモカが頭に浮かんだ。


「それは素敵だけど、ひっきりなしに治癒ばかりさせられるかもよ。

 教会は聖獣を大切に扱ってくれるとは思うけど、自由は少ないでしょうね」

「えっ~~、それはヤダ」

「モカの好きなきれいな男の子なんかめったに見られないかも」

「ふふふ、それは大丈夫。教会はキレイな子が結構いるから」


 するとBL嫌いのミラがちょっとだけピリッとしたので、

「ごめん、その話題は止めましょ。みんなが仲良くなってくれて嬉しいよ」



「エリー、学校で卵いらなくなったんでしょ?どうするの?」とモカが聞いてきた。

「私はあの子にウチの子になるか聞いて、なると言ってくれたのだから手放したりしないよ」

「そうなるといつ孵すかが問題だね」

「そうね、今はクライン様の仕事も慣れてないからそれが落ち着いてからにしたいんだけど」


 それで私はベッドサイドに置いてある卵に触れてみた。

「もう少しだけ待っててくれる?」

 すると、ちょっとだけと答えが返ってきた気がした。

「ありがとう」



 ドラゴ君が私たちのやり取りを見ていて、

「なかなか強い個体だね。もうすでに意識が出来ている。前に孵そうとされたせいかもしれないね」

「前の持ち主の力が残ってるってこと?」

「前の持ち主に支配力はない。ただ揺り動かされた意識があって、自分の気に入る主が来るまで待っていたんだ」

「私が選んだんじゃなくて、私が選ばれたってこと?」

「エリーがその気になってくれなきゃ、選べもしないよ」



 モカが思い出したように聞いてきた。

「それよりもエリー。モリーの登録どうするの?」

「そうね。しない訳にはいかないよね。なんとなくなんだけど表立って私がモリーをテイムしたことを明かさない方がいいと思うの」

「ならジャッコさんに相談しようよ」

「一番の専門家だもんね。レターバード出すわ」



 それで詳しいいきさつを手紙に書いて送ると、ジャッコさんからすぐに返事が来た。

 内容は出来るだけ早くモリーの登録を済ませてしまうことと、私が表に出ないように『常闇の炎』名義で登録して、担当テイマーとして名前を連ねたらいいこと。


 もし私が『常闇の炎』を離れることがあっても、モリーの所有権は私にあるようにするための書類が一緒に添付されていた。



 明日、私が授業を受けている間にドラゴ君がモリーをジャッコさんのところに連れて行って必要書類と一緒に手続きしてくれることになった。

 前にモカを登録した時と同じように今度は私の委任状で契約するのだ。


 今はまだモリーの存在は一部の人にしか知られていない。

 だが見つからない期間が長引けば冒険者ギルドに依頼されて、本格的な捜索活動が行われる。

 そうなればモリーを見つけたものは討伐か、捕獲してギルドに納めなければならないからだ。



 モリーはもう私の家族だ。

 手放すつもりはない。

 この子は私が守るのだ。


 ヴェルシア様、どうか私にモリーを守ることができますように。



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 ミラのBL嫌いはエリーが腐ると死ぬと思っているせいで、内容については全く理解していません。

 わかってないけど、BL反応しているモカの様子を察知しています。


「モカおねーちゃんは、くさってなければいいおねーちゃんなの。

 モリーのまほーでもなおらないのは、じゅーしょーなの。

 だからおかーさんはミラがまもるの」         (ミランダ 談)



ミランダの気持ちは下記SSに載せてあります。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054893085759/episodes/1177354054894167432



本日18時、新作SSアップいたします。

モリーが主役です。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054893085759/episodes/1177354054894766578


この物語を読んでないけど、たまたまここを開けた読者様。

このSSは第211話まで読んでいないと何の話かわかりにくい仕様です。

おもしろさも半減します。

どうか第211話までお読みいただいてからこのSSをお読みください。





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