第195話 ユナとのその後


 テスト期間少し前に、ユナも学校に復帰した。


 今回はテスト免除であとで補習の上、追試を受けるそうだ。

 彼女はアシュリーとケインに連れられて私に謝りに来た。

「その……、色々と悪かったわよ」

「本当に謝る気ある?」

「あるわよ!」


「私、マイヤ院長先生にも了解いただいてるんだけど、あなたには償いをしてもらう。身の危険はないけど厳しいから。わかった?」

「わ、わかったわよ」

 それでその日の放課後、私と一緒に行動してもらうことになった。



 アシュリーとケインが恨めしそうにこちらを見てきた。

「心配なのはわかるけどこれはどうしても必要なの。アシュリーも一度は納得したでしょ」

「わかった。すまない」

 ケインはまだ納得いってなかったようだが、してもらうしかない。



 放課後、校門にクランの馬車(箱型だけど普通のタイプ)が私たちを待っていた。

「ユナ、乗って。私も乗るから」

「わ、わかった」


 ユナと私が中に入ると、ビアンカさんが待っていた。

「この子なの?」

「はい」



 今回のユナの裏切りは、私の容姿への妬みをドロスゼンに突かれたせいで起こったことだった。

 だったらユナのコンプレックスを失くしてしまえばいい。

 それで私はビアンカさんに依頼を出した。

 お金は取ってくれなかったけど、また着せ替え人形をすることになった。


「その子を女優にして、ウチのお客にすれば一石二鳥ヨネ。やるワ。

これでエリーちゃんに何着せてもいいのヨネ。楽しみだワ」

 どうしよう。ちょっと怖いです……。



 ビアンカさんがユナをジロジロ見る。

 さすがにユナも知らない大人(しかもすごい美形!)相手に何が起こるのかわからず、緊張しているようだ。

「ちょっと、アンタ」

「は、はいぃ」

「何ヨ、この髪!女の髪は宝石よりも美しくなきゃいけないのヨ。今日からブラッシング1000回ね」


「ブ、ブラッシング?」

「髪の毛をとくことヨ。それにその間はずっと鏡見て、私はキレイって自分に言い聞かせること。ちゃんと声に出すのヨ。いいワネ!」

「な、何ですか?それ」

「女優になるために必要なことに決まってるジャナイ!」


「あ、あの」

「何?」

「ヘアブラシ、持ってないです……。櫛でもいいですか?」


「櫛でもいいけど、しょうがないワネ。アタシの貸してアゲルワ。初給料で自分の買ったら返してヨ」

「ユナ、これ金貨30枚くらいするの。貴重な魔獣の毛で出来たブラシだから」

「自分で買うのはココまで良くなくてもイイワヨ」

 それを聞くてヒィィとユナの喉がなった。


 でも本当なの。

 フェアリーボアという、特殊な地域に住むボアの毛を使用していてAランク以上でないと取りにいけないから。

 ビアンカさんは自分で取れるかもしれないけど、今は冒険者されてないもの。



「1000回って……」

「本当に1000回しろって意味じゃなく、こういういいブラシで髪の毛を解くと艶が出てきれいになるの。それ目安でいいと思う。私もやれって言われてるの。

 やらなかったらすぐわかるみたいでビアンカさんに大目玉だもん」

「エリーの髪の毛つやつやなの、そのせいだったの?」

「うん」

「買ったの?ブラシ」

「ううん、入学祝にいただいたの。誘拐犯討伐のおかげでクランの子供たちが戻ってきたお礼なの」

 ヘアブラシだけじゃなくて、部屋にある家具その他一式だけどね。



 ビアンカさんは私たちが話している間にユナの見分を終えたようだった。

「血色も悪いワ。ちゃんと食べてる?」

「ビアンカさん、アランカの森に人が多くて今お肉やお金が不足してるそうです」

 

 ビアンカさんはユナの爪の色を見ているようだ。爪が白いと貧血状態なんだって。

 目の下も引っ張って見てみる。ちょっと白い。

 貧血ってそうやって確認するんだね。



「しょうがないワネ。今日は化粧で誤魔化すワヨ。

 いいこと!女の美貌はちゃんとした食事をしてこそ成り立つの。

 アンタは子供なんだからなおさらヨ。将来貧弱な体の大人にしかなれなくなるワ!

 多少の借金してもちゃんとバランスの取れた食事取りなさい。学食あるんデショ」


「あ、ありますけど、あたし……きれいじゃないから」

「教えてアゲル。キレイでない女なんかいないワ。

 ただ諦めた女と諦めてない女がいるだけヨ。女は諦めたら終わるの。

 アンタ、まだ始まってもいないのに諦めるワケ?」



「あの、でも」

「確かにウチのエリーみたいにものすごい美少女になるのはムリ。それは諦めて。

 でもね、アンタはまだ磨きもしてない原石なの。

 どうなの?アタシの言うことを聞いてアンタ史上一番の美人になるか、諦めていじいじした女で終わるか、ドッチ?」

「美人になりたいです!」


「とにかく今日のオーディション、アンタを今できる最高にかわいくしてアゲル」

「オーディション?」

「女優になりたいんでショ。劇場がそれにふさわしい女の子を選ぶことヨ。

それとも今まで通りでイイの?」

「オネエサマ、ついていきます!」



 そしてユナにビアンカさんの最高テクニックを駆使すると、とんでもない美少女に生まれ変わった。

 ビアンカさんはさっきああ言ったけど、私全然負けています。



 馬車がラッセル劇場につくと、ユナ以外にも同じくらいの年恰好の子が何人かロビーで座っていた。

「いいこと、アンタは素直にアンタを面接官にぶつけてくるの。エリーが踊りのスキルがあるって言ってたけど踊れるのヨネ」

「はい!」


「得意なモノを見せろとは言われるから、得意なダンスを踊りなさい。他の子が歌だの、演技だのしても揺るがないでネ。

 落ちたらブラシも貸さないし、美人にもしてアゲない」

「死ぬ気でやります!」

「その意気ヨ。ガンバんなさい」

「はい!行ってきます」



 その後はどうなったのかというと、ユナは見事に合格した。

 例のビアンカさんと売りつけたメイド服でアレーナさんと一緒に踊る役だ。

 7人で踊るので揃えるのがとても難しいんだって。

 モカの自動パペットと魔族という設定はなくなったが、身分違いの恋をテーマにしたコメディーですごく楽しいのだそうだ。


 補習や追試どうするんだろう?でももう私は彼女の勉強は見ない。

 ユナは夜しか暇が無くなって、アシュリーが教えることになったようだ。



 初日は12月24日のホーリーナイトなのだという。

 私は初日は見られないけど、セードンから帰ったら見に行くことにした。

 ユナは残念がったけど、そのくらいの距離感が私には心地いい。 


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 血色が悪いというのは鉄分不足です。

 鉄分が不足すると顔色が悪くなります。女性の皆様ご注意ください。


 それと「私は美人」と言い聞かせて本当に美人になるかは定かではありません。

ですがそういう内容の書籍が存在します。

 佐藤富雄さんという方の書籍でどれを読んだのか忘れたのですが、ユナはマインドコントロールされやすい子だから、セルフマインドコントロールがうまくいくと思うので採用しました。

 おススメではなく、あくまでも参考文献です。







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