第187話 決闘の申し込み


 教室に行くと、ジョシュとアシュリーが寄ってきた。

「呼び出しがあったって聞いたけど、大丈夫だった?」

「うん、次の休み時間話がある」

「「わかった」」



 魔法学の授業はまずは座学だった。

 呪文についての話で、私のようにイメージが強くてワンワードで済む魔法士と、詠唱を必要とする魔法士がいる。だがより複雑な複合魔法を使うときには長い詠唱の間に魔力を構築することが出来る。



 後半はみんなに粘度が配られ、土属性か魔石を使ってゴーレムを作る練習をした。

 ワンワードで「ゴーレム創造クリエイトゴーレム」と唱えるだけではイメージが弱すぎて土人形の形になっただけだった。

 より長くイメージを張り巡らせながらゴーレムについて詠唱する。



「……汝、我がしもべたるミランダの姿を取りて顕現せよ!クリエイトゴーレム」


 長々とした詠唱のおかげか、ミランダの愛らしい姿をしっかりとイメージできたので、片手に乗るほどの小さなミランダ型ゴーレムが作ることが出来た。



 土魔法専門のテラント先生が、

「おお、トールセンさん。見事なゴーレムです。今度は歩くことをイメージして動かしてみてください」

「はい」


 歩かせるのは簡単だった。さすがに鳴かせることは出来なかったが、ミランダのように伸びをさせ、お昼寝までさせてしまった。



 私の次にできたのはクライン様。小さな人形で妹様にプレゼントしたものらしい。

 次はジョシュ。馬だ。すごく格好いい。騎士が乗るタイプのものだ。

 ディアーナ殿下は小鳥をイメージされていた。


 ラリック様は土魔法が得意でゴーレムもよく作られるそうだが、今回は少々遅れてできた。

 家で飼っている猟犬の姿だそうだ。

 もしかしたら私と言い争いをして集中できなかったのかもしれない。



 一応みんなゴーレムを構築できていたけど、魔力かイメージか、出来栄えは随分違っていた。

 私は魔法制御がすごく得意なので、これはラッキーな授業だった。



 授業が終わったら従魔たちにも見せてあげよう。

 もしかしたら、この学校最後の授業になるかもしれない。



 お昼休みはジョシュとアシュリーを誘って、いつもと場所を変えた。

 魔法陣を起動させる


「サンクチュアリ!防音(サウンドプルーフイング)!」

「「エリー」」

 私が防御魔法の上に、防音まで掛けたので2人は驚いてしまった。

「敵はドロスゼン」


「間違いないの?」ジョシュが固い顔で聞いてくる。

「うん」

「どうするつもりだ?」

 アシュリーも私の殺気を感じてか、緊張した面持ちだ。



「もちろん、デュエルを申し込んで叩きのめす」

「待ちなよ。危ない真似はダメだ。マリウスのこともあるんだ」

「おい、マリウスがどうかしたのか?」

「今はエリーだ。黙っててくれ、アシュリー」


 ジョシュはこちらに向き直って、

「とにかくクライン様に指示を仰ごう」

「待てない。彼女はもしかしたらラリック様も操作している可能性も出てきた。

あんな大貴族を操られては私の命は今日限りかもしれない」


「馬鹿な!アリアは血縁こそ近くなければ王妃になれるほどの人材だぞ。

心操作など簡単に受けるわけがない」

「それが受けていたんだよ」



 アリア呼び……。ジョシュ、君は彼女とも幼馴染なの?

 ねぇ、ジョシュ、どうしてそんなに貴族たちと仲良くできるの?


 いや、今は関係ない。

 私はマルトを叩きのめす。

 彼女がもう誰も穢せないように。



「とにかく行く。ドラゴくん、モカ、ミランダ、ついてきて」

「わかった」

「クマ―」

「にゃ!」


「ダメだ!行かせない」

拘束バインド!」

 私はジョシュとアシュリーを魔法で拘束した。

「5分で解けるから、我慢して」

「エリー、そんなことするな!死ぬかもしれないんだぞ‼」


「もしかしたら、このことで私は退学になるかもしれない。だからお弁当は今日までね。出来れば残さず食べて。みんな行くよ」



 拘束を解こうともがく2人を尻目に、私は教室に戻った。

 マルト・ドロスゼンはティムセンさんといつも教室で食堂で買ったお弁当を食べているのだ。



 教室に入っていく私の殺気を感じてか、みんな急に押し黙った。



 私が近づいたので、週末の買い物のことなのかとティムセンさんが話しかけてきた。


「トールセンさん、店の品物に不備でもあったのですか?」

「いいえ、ティムセンさん。良い買い物をさせていただきました。ありがとうございます」

「いいえ、こちらこそ。お買い上げいただきありがとうございました」

 2人でお互いにお辞儀をする。


「ならどうして……」

 私はティムセンさんに微笑み、ドロスゼンに向き直った。



「マルト・ドロスゼン。私の名誉を棄損したお前に決闘デュエルを申し込む。

 お前が受けなければ、私は前回の私刑による吊し上げの名誉棄損であの時の全員にヴェルシア神の罪の印をつける。もちろん、お前にもだ」

 迫力ある言い方がよくわからないから、朝のサスキア様みたいに男言葉で迫ってみた。


「何を言うの?私は何もしていないわ」

「ウソをついても無駄だ。お前がラリック公爵令嬢を操ってティムセンさんに罪を着せようとしたことも分かってるんだ。さぁ、受けろ!」


「な、なに?わたしに罪を着せるって?」

 ティムセンさんが目を白黒させる。

「ラリック様に私のことを告げ口したのはティムセンさんだと言わせるように暗示を掛けたんだよ」


「わたしはラリック様のお側に寄ったこともないわ。おかしなことを言わないで」

「でもラリック様はあなたが告げ口したと私に言った。モリス様やサスキア様、カナリー様も聞いている」

「そ、そんな!」

「わかっている。ティムセンさんはそんなことをしない。したのはお前だ。ドロスゼン」



 マルト・ドロスゼンは、おかしな人間に言いがかりをつけられたとばかりに、困ったように微笑んだ。

「どっちにしろデュエルを受けないと罪の印が出るんでしょ。あなたのその様子じゃ今から謝罪しても受けないでしょうし」

「その通り」

「じゃあ、受けるわ。そうするしかないもの」


「では放課後、逃げるなよ」



 賽は投げられた。

 どう出る?マルト・ドロスゼン。





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