第173話 モカの心配
「モカ、もしダメだったらそう言ってね。一体そのコンサートで何が起こったの?」
「うーん、あたしもよく覚えていないんだ。
それはおばあさまの引退コンサートで、日本ではあたしたちの住んでいた縦浜で行われたの。あたしたちは家族だから最前列のど真ん中に座っていたわ。
おばあさまとゲストソリストが演奏した1部が終わって、2部ではファンが1番聞きたいものを選んでもらってオーケストラと演奏することになっていたの。3部はおばあさまのソロピアノ。
勇者になった松永さんや他の人はそのオーケストラの人たちなのよ。
みんなが舞台の席について、指揮の高橋
私のいた日本は地震の多い国だったから。それからほぼ同時にぴかっと光っておじいさまがおばあさまに駆け寄ろうと呼びかけた声が最期の記憶なの」
マツナガさまの話は揺れと光はほぼ同時と書いてある。同じコンサートで間違いないだろう。
「それじゃあ、何が起こったかわからないね」
「そうなの。でも松永さんの手記だと魔法陣が現れたとあるわ。おにいちゃんもその時に召喚されたっていうし。
私たちは地震か何かで死んでしまってちょうどいい魂として召喚されてしまったのかもしれない。ラノベでよくある設定よ」
「ラノベって小説のことでしょ?本当のことなの?」
「わかんないけど、ラノベには魂の総数が足りないから不慮の事故で亡くなった人を連れてくるって話なの」
「でもそれだとモカはユーダイ様と同じ時に亡くなったってことよね。
どうして同時じゃないのかな?ユーダイ様の活躍は200年前だもの」
「それが召喚と転生の違いかもしれない」
私たちは黙るしかなかった。考えても召喚や転生の仕組みなどわかる要素はここにない。
「ラノベだと神様が現れていろいろ説明してくれて、チートな能力をくれるんだけどあたし全然記憶がない」
「でもモカは精霊神の加護もあるし、お目にかかったのかもしれないね」
そう言っても、モカの目にはまた涙が浮かび始めた。
「あたし、怖いの。あたしやお兄ちゃんや松永さんたちがこっちに来てるでしょ」
「うん」
「だったらお母さんも、おばあさまやおじいさま、それにおじさまに、友達の夏菜もこっちに来ているかもしれないってことよね」
「それは……大いにありうるよね。ただ時期がずれているかもしれないけど」
「そうなの。会えればいいけど、もしかしたら会えないくらいずっと前やもっと先に現れるかもしれない。あたしがお兄ちゃんとすれ違ったみたいに」
会えなかったらどうしようとモカはまたむせび泣いた。
こればかりは気休めの言葉など言えなかった。
同じ時期にこっちに来て離れているだけなら、頑張れば会える。
でも来ているかわからない。時期もまちまちでは探すことも出来ない。
「モカ、いい結果になるかはわからないけどこれから転生者を探そうよ。
そしたらモカの家族や友達がいるかもしれない。
ただこちらでは転生者ってバレるとあんまりよくないみたいなの」
「どうして?」
「転生者って私たちとは全然違う計り知れない能力をお持ちなの。ユーダイ様もそうだし、モカもそうでしょ。
だから勇者として戦いに赴かされることが多いの。そのお力を殺ぐためにね」
「何それ!ひどい」
「モカが聖獣だと知られるとマズいと思うのはそれもあるの。もしモカの優れた魔法のことが知られたら、それを利用するために隷属されてしまうかもしれないから。
私はあなたを奴隷になんか絶対にさせたくないし、エンドさんも望んでいない。
彼は自分が隷属されてもあなたを救ったんだから」
モカは押し黙った。エンドさんの深い忠誠を感じ入ったのだろう。
「転生者は探すけど、念には念を入れて慎重にやろう。危険が無いようにコンタクトを取るのよ。前は信頼のおける人でも今は違うかもしれないから」
「そんなこと……」
「ごめんね、モカ。人間ってね、立場によって変わるの。信頼のおける人と思っても、相手が誘拐犯だったり、洗脳されているかもしれなかったり。いろいろあるの。
私も短い間に痛い目を見たわ。モカにはそうなってほしくない。
私はあなたが大切なの」
「……うん、ありがとう。エリー」
それでもやっぱりモカの元気はすぐには戻らなかった。
やはり、親しい人の行方は心配なのだろう。
私だって、父さんと母さんが離れ離れになってどこか遠くに生きているとしたら、何とか探し出して会いたいもの。
ドラゴ君にも話してみたが、
「転移ならまだしも、転生者は難しいよ。だって体はこちらで生まれてるんだもの」
「転移者だとどう違うの?」
「魔力の質が違うんだ。ぼくたちは4大属性と光樹闇でしょ。電撃魔法は闇の中で光が放たれるから光と闇の複合魔法になる。でも転移者だと、雷魔法として単純に使えたりするんだ」
まさにユーダイ様がそうだったのだという。ドラゴ君そんなに長生きだったのね。
「魔法に対する認識が違うのかもしれないね」
「ぼくもそう思う。例えば、変身魔法と言えばぼくなら獣化と人化だ。でも転移者は衣装を変えたり、他の人の姿に化けたりを言うこともある。
僕にしてみれば他の人に化けることは擬態だけどね」
なるほど。感覚の違いなのか。
「そのわずかな違いがぼくらから見れば異質に感じる。だから転移者はわかりやすい」
「でも転生者はそうではない」
「そういうこと。あまりにも転生前の意識が強すぎたらわかるかもしれないけど。
こちらで生活していて、全く影響を受けないでいられるなんてそうそうないよね」
「うん、そうだね。難しいということはよくわかったよ」
何か方法はないんだろうか?
ヴェルシア様何か私に出来ることはあるんでしょうか?
どうぞお教えくださいませ。
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エリーはドラゴ君がエンシェントドラゴンだったことを記憶から消されているので、200歳以上ということを覚えていません。
見たままぐらいの年齢だと思っていたのです。
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