第118話 セードンの冒険者ギルド
セードンの冒険者ギルドは避暑地のせいか、白い壁に青いタイルで飾られた瀟洒で美しい建物だった。ここに荒れくれ男どもが通うなんて驚きだ。
でも中に入るとやっぱり冒険者ばかりだった。むしろ私と母さんとドラゴ君はちょっと浮いている感じだ。
入っていくと向こうからギルドの職員が近寄ってきた。
「奥様、ぶしつけに失礼いたします。本日はご依頼のお申込みでしょうか?」
「いいえ、私たちは従魔登録に来たの。私のギルドカードよ」
母さんのAランクのカードを見て相手はすごく驚いていた。
平民の一般的な服装なんだけど、母さんはどう見ても貴族が平民に変装したように見えていたのだろう。
「窓口は空いております。すぐご案内します」
「悪いけど個室でお願いしたいの。構わないかしら」
「もちろん、Aランクのマリア様のご希望でしたら。こちらです」
個室に案内されて待っていると30代半ばの屈強な男性が現れた。くすんだ金髪の美丈夫ですごくモテるだろう。彼の顔を見て母さんは嬉しそうな声を上げた。
「あら!セイラムじゃない。久しぶりね。元気だった?」
「ああ、マリアも元気そうで何よりだ。それにしてもニールの戦女神がセードンに現れるとはな。俺は嫁がこの町の出身なせいか、いつのまにかギルドマスターなんかやらされることになって今はこんな感じだ」
「ああ、ラリサだっけ。勝気そうな美人だったわね。私いつも睨まれてた」
「あの頃オレはお前にぞっこんだったからな。トールとはうまくやってるのか?」
「今一緒に旅行中よ。紹介するわ。私の娘のエリーよ。一応Dランク冒険者」
「セイラムだ。よろしくエリー」
出された右手はたくましくてごつごつしていかにも冒険者の手だった。私が手を握るとにっこりしてくれた。
「旧交を温めたいところだがさっさと用件を済ませよう。一体戦女神は何がお望みかな?」
「戦女神はやめてよ。エリーの従魔登録をしたいの。こちらがクラン『常闇の炎』のクランマスター、ビリーさんの正式な委任状。今から出す従魔は彼の従魔でエリーに貸し出しされるの。そのように手続きして」
「わかった。その従魔出してくれ」
私はドラゴ君を抱き寄せて、カバンからモカを出した。
セイラムさんはそれを見てなるほどなと言うように顎を撫でた。
「ティーカップ・テディベアか。今ものすごく高騰しているからな。
確かにもめ事しか起こらないな」
「ええ。見つけたのはエリーなんだけど、エリーだけの従魔にしたらデュエルで奪われるでしょ。それでエリーの後援者のビリーさんに間に入ってもらったの」
「冷血魔族って噂の御仁だな。それがマリアの娘の後援者?」
「全然冷血じゃないわ。とても紳士的でちゃんとしたお方だったわ。
娘が大けがしたことでも助けていただいたし」
「『常闇の炎』はこんなガ、いや子供を攻略に使うのか?」
「違うわ。学校での事故なの。それ以上は言えない」
手続きする前にセイラムさんは私に確認した。
「お嬢ちゃん。ティーカップ・テディベアが今いくらなのか知っているか?」
「いいえ、いくらでも売りませんから」
「1000万ヤン。金貨1000枚だ。ものすごい大金だぞ」
「1兆ヤンでも売りません。とても大切な私の友達なの」
「無駄よセイラム。娘は事故でとても傷ついたの。
笑えなくなっていたのにモカがきたらよく笑うようになったわ。
私は1000万ヤンより娘の笑顔の方が大切なの」
「確かに娘がそうなったら、俺もそう思うな」
「あらセイラム、子供生まれたの?」
「息子が2人に、生まれて間もない娘がいる。めちゃくちゃ可愛い」
「ふふ、ギルマスになってよかったわね」
セイラムさんは納得すると素早く手続きしてくれた。
初めにモカをクランマスターの従魔にした。委任状に記されたマスターの紋章をモカの足に転写し書類を作った。
次に私の紋章をモカのもう一つの足に転写して完了だ。
「お嬢ちゃん。こいつはすごく貴重な魔獣なんだ。絡まれるといけないから俺の承認タグをつけておく。学校ってことは王都か?」
「はい」
「では王都のギルマスにも連絡しておくから承認タグをもらうんだ。ここで行われた従魔登録は正式なものだが力づくで奪おうとする奴が出ても不思議じゃないからな」
「はい、帰りもカバンに入れた方がいいですか?」
「ああ、無駄な騒ぎを起こさないためにな」
セイラムさんはギルドの玄関まで送ってくれた。
「せっかくだから今度飲もうぜ。お互いの伴侶も込みでな」
「いいわ。セイラムの子どもにも会いたいから子供が来られる店でね」
「ああ、探しておく」
そう言って見送ってくれた。
「セイラムがいてくれて話が早かったわ。
ティーカップ・テディベアはね、ギルドに納品したら1000枚なんか目じゃない価格で売られるわ。
その差額がギルドの儲けになるの。
お金に汚いギルドだと何時間も粘られるところなのよ」
「母さん、セイラムさんがギルマスって知ってたの?」
「まあね。不在だとどうしようもなかったけど。いい友達を持ったわ」
本当は求愛者だったんでしょ?って聞いてみたかったけど、今はお互い家庭を持って幸せだからそんなことどうでもいいような気がした。
「モカ、もうちょっとの辛抱だからね」
「クゥーン」
やっぱりモカ賢い。ちゃんと熊の鳴き声で答えた。
「さっさと帰りましょ。トールが寂しがってるかも」
そうかな?ミランダと遊び惚けてそうだけど。
知らなかったけど父さんは動物好きだったようだ。
もちろん魔獣だから普通は危ないけど、ミラはすごく賢いし父さんのことを覚えて懐いてくれた。
ああ、やっぱり幸せだなぁ。
いつまでも夏休みが終わらなきゃいいのに。
ヴェルシア様、このような幸せを与えて下さりありがとうございました。
クランマスターにも心からの感謝を捧げます。
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