第117話 二人目の転生者
父さんと母さんに事情を話してモカを紹介したら、2人は絶句していた。
でも彼女の余りの可愛さにすぐに仲良くなっていた。
彼女がいなくなることは私の命に直結していることも理解してくれた。
モカとも相談した結果、彼女を私の従魔にすることが決まった。
そしてエンドさんが迎えに来るか、モカの安全が保障されるような状態で独り立ちできる場合には従魔解放をする魔法契約を結ぶことになった。
そうしないとモカが誘拐されてしまうかもしれないからだ。
ティーカップ・テディベアはその愛らしさからとても人気がある魔獣で、しかも乱獲されてとても稀少な魔獣になってしまった。
実際、モカの家族も冒険者に捕獲されていて、モカだけが無意識に転移を使って逃れたのだ。
「あたしどうやって魔法を覚えたのかもよく覚えてないんだ。すっごく怖くて逃げたいって思ったらいつの間にか近くの木のうろの中にいたの。足音や鳴き声がしなくなって外へ出たら、みんないなくなってた」
そういうとクスンと涙目になりながら、モカは私の腕の中に来た。
どうやら私の側にいるのはとても安心するらしい。
清廉スキルは動物や子供が懐きやすいと聞いたので、そのおかげだろうか?
モカに聞けば、
「エリーって、ちょっとだけあたしのおばあさまに似てるからかな」
「モカのおばあさま?」
「もちろん、前世の方」
そうなのだ。モカはハルマさんと同じ転生者なのだ。
モカは前世では13歳(年上!)の中学生で、アニメやゲームが大好きなごく普通の女の子だったらしい。
一つだけ違ったのは母親がイギリス人だったこと。
「普通はハーフだと美人になるんだけど、私は日本人の血が濃く出て地味だった。
お兄ちゃんはイケメンだったのに~」
そのおばあさまは、イギリスという国の貴族だったらしい。
私の知っている貴族とは違って、領民から税金を取り立てて生きるような人ではなく、自分で働いていてしかもピアニストなんだそうだ。
おじいさまは商業で成功して、一族から受け継いだお屋敷と周辺の土地を守りつつおばあさまと結婚したそうだ。
モカのお母さん(様付けなのはおじいさまとおばあさまだけなんだそうだ)はイギリスのお屋敷で育ったんだって。
大きくなって日本を訪ねたときにモカのお父さんと知り合ったんだそうだ。
「おばあさまはね、世界中にファンがいるすごいピアニストだったのよ。
元々はオーストリア人でいろんなコンクールで優勝してプロとして活躍してたの。
おじいさまはおばあさまの大ファンで、2人は熱烈に愛し合っていたのよ。
おじいさまはおばあさまのことをずっと70歳過ぎてもお姫様として扱っていたわ」
「音楽は好きだけど、私は全然お姫様じゃないよ」
「そういうんじゃなくて、エリーに抱っこしてもらうとおばあさまに抱っこしてもらったときみたいに安心ってこと」
まだ10歳なのでおばあさま扱いは嫌だけど、安心してくれるなら構わないか。
初めて聞いたときはわからない言葉が多くて困ったけど、モカは前世の話をするのが好きみたいでアニメとかコンクールとかイギリスとかしっかり説明してくれた。
私がハルマさんの存在を告げると「会いたい!」と言ってくれた。
でも母さんが言うにはティーカップ・テディベアってだけでも貴重なのに、しかも人語が喋れて、魔法まで使える特殊個体なことは出来るだけ知られない方がいいってことで当分の間は見合わせることになった。
従魔登録すればとりあえずは私の所有という肩書が出来るし、ドラゴ君や『常闇の炎』の名前で守れると思っていたら、私から略奪しようとする貴族や冒険者が現れるに違いないと母さんは言った。
「年々個体数を減らしているのに、1度見たらみんなかわいくて欲しくなるの。
できればモカちゃんを隠す方法があればいいんだけど。
それかビリーさんぐらい強ければね」
「母さんも同じAランクでしょ。母さんじゃダメなの?」
「私は運の良さだけでランクアップできたからね。もちろんそれなりには強いわよ。でもAランク以上と戦って勝てるかはわからない。
エリーの従魔にしたらたぶん
冒険者の争いごとにはデュエルが許されている。
そして勝った方が負けた方の財産を奪うことが許されている。だから稀少な従魔や剣、装備などを掛けて決闘が行われるのだ。
そして合法的に奪われてしまったら、取り返すすべはないのだ。
「ドラゴ君がエリーだけの従魔ならとっくの昔にデュエルで奪われてるわよ。
なんとかモカちゃんもビリーさんかクランの従魔に出来るといいんだけど」
「そんな、だって利点ないじゃない。私はクランマスターに返せないほどの恩義と借金があるのよ」
「それでもエリーがモカちゃんを守りたいなら、頼んだ方がいい」
ちなみにミランダもすごく強くなるケット・シーなのだが奪われない。
卵を孵して育てている従魔は初めての主を親と認識する。
だからデュエルで無理やり奪ったら悲しみの余り死んでしまうのだ。
初めての主の愛情が不足しても育たないそうだけど。
ミランダが小さいの、私の愛情が足りてないのかなぁ。
ドラゴ君は「ミラは甘えん坊だから」って言うけど。
悩んだ結果、私はドラゴ君経由でクランマスターにお願いすることにした。
ドラゴ君は今度の経緯をよく知っているからだ。
ご迷惑かけるのはわかっているけど、だってどうしてもモカを守りたいんだもの。
借金が増えるくらいなんだ!これからも働くぞ!
クランマスターからはすぐにお返事があって、『使えるものは使っていい』とのことで正式な委任状もくれた
本当にいつもありがとうございます。
「ドラゴ君、クランマスターから了解は得たんだけど、本当にいいのかな?
悪用するつもりはないけど、みんながみんなそうじゃないでしょ?」
「もちろん、エリーだから許されてるんだよ。
エリーが持っている清廉スキルはヒトを裏切ったり、約束を破ったりしにくいんだ。
それをやるにはエリーは死ぬような苦しみがあるよ」
「ええ!何それ怖い。でも私嘘はつけるよ」
「嘘も他人のためか、自分の身を守るために最低限でしょ。
人を陥れるためにとか、利益を得るためにとかそういうのはできないよ。
それに困ることはエリーだいたい黙ってるでしょ」
「……うん」
そうなのだ。昔から嘘が付けなくて本当のことを言い過ぎてしまうから、基本黙ることにしているのだ。
だからスライムダンジョンの金貨を持っていたときも、ハルマさんにお金がないとは言えなかった。
ルイスさんに嘘の経歴を言ったときは流ちょうに喋れるなと思っていたけど、実際身を守るためだったのだから驚きだ。
身を守ろうと思っていた訳じゃなくても、ヴェルシア様が許してくださったのかな?
いや普通だったら自分の経歴を話してもいいのに、なぜかあの時面倒に感じたんだろ?それもヴェルシア様のお導きだったのかもしれない。
クランマスターがお忙しいので、代わりに私たちだけでセードンの冒険者ギルドで手続きをすることになった。
正式な委任状を持ち込めば、本人不在でも従魔登録はできるのだ。
しかも母さんはAランク冒険者で私と委任状の保証人になってくれる。
ギルドにはドラゴ君も一緒に行くことになった。ドラゴ君のカバンの中にモカを隠すのでミランダには悪いけど父さんとお留守番してもらった。
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