第113話 魔獣商へ
魔獣商とは、読んでそのまま魔獣を売っているお店だ。
卵から成獣まで幅広く取り扱っている。ただしAランク以上の魔獣は店にはいない。
いやいるのだが、管理するのが大変なので契約だけして放し飼いにしている。
そして見せるためには召喚を行うのだ。
自分より強い魔獣を手に入れるのは危険が多いが、一度契約で縛られた魔獣ならば
つまり私が今クランマスターからドラゴ君をお借りしているみたいに、別のサモナーやテイマーから魔獣を生涯契約で借りるか、契約そのものを完全買取するのだ。
生涯契約で借りる場合の利点は2つ。自分の能力より強い魔獣でも使役出来ることと魔獣との気が合わない場合は返品が可能なことだ。
戦いにおいて共闘する従魔との相性は大切だ。
自分のサポートをさせるために借りたのに、能力はあるのにサポートしてくれないことがある。例えば、回復魔法目当てに買った魔獣が戦闘ばかりしたがるなんてことがあるのだ。
これは仲良くなれば徐々に言うことを聞いてくれるのだが、かたくなな魔獣は結構多い。
それで、一部の違約金を払えば返せるのだ。
この制度を利用して一時だけ借りる人もいるようだ。信頼関係がほとんどないからどのくらいのサポートになるのかは知らない。
この借りるのには欠点もあり、それは魔獣の使用制限だ。
あくまでもその魔獣は借りているのであり、危険な仕事をさせて死なせてしまうと弁償しなくてはならない。だが
契約そのものを完全買取する利点は魔獣の能力のすべてを使役できる点にある。借りるよりもずっと危険な仕事をさせることができるし、死なせてしまっても弁償しなくていい。
ただし、自分で魔獣を屈服させないといけない。
だから完全買取はかなり強い力の持ち主でないとならないのだ。
「エリー、今日決めてしまわなくてもいいからね。王都の方が割高でしょうけど、種類は多いはずだから」
「うん」
魔獣商に行くのは私と母さんと、それとドラゴ君とミランダだ。
戦える魔獣を買うのでAランクの母さんと行けば足元を見られることはないし、ミランダと仲良くしてくれる子がいいから連れていく。ドラゴ君は将来クランマスターにお返しするんだけど護衛として付いてきてくれた。
「ねぇエリー。ぼくにローブ貸してくれない?大きさ変更の付与ついてるんでしょ」
「いいけど、どうして?」
「これにさらに隠蔽と潜伏と気配遮断もつけて欲しいんだ。ぼくの力が強すぎて魔獣商のみんながひれ伏しちゃうから」
そっか、ドラゴ君は人化もできるし、魔法も使える上位魔獣だもんね。
ローブは十分許容できそうだったので付与をつけようとしたが、意外になかなかできなかった。それでもドラゴ君のために頑張ったらなんとか出来た。体調が悪いからなのか?と思いきや、ドラゴ君が言うには私のスキルのせいなのだそうだ。
「エリーって清廉スキルを持ってるでしょ。だから隠蔽が出来ないんだよ。これって清廉でないヒトがよく持ってるスキルだから」
「そうなんだ、知らなかった」
たまに鑑定するとスキルを見られないように隠蔽している人に出会う。ルノアさんもそうだった。
もちろん許可をもらってから鑑定した。勝手にやったら察知されて攻撃されるからね。
スキルは力だから隠蔽は覚えた方がいいと随分言われたが、これだけは取れなかったんだ。清廉スキルのためだったのか。
あれからまだ半年しか経ってないんだな。なんだがものすごく昔のような気がする。
ドラゴ君が私のローブを着ると私にはわかるけれど、母さんには気配すら感じなくなった。
「母さん、本当にわからない?私今抱っこしてるよ」
「エリーの腕が抱っこの形になってるから、本当だと思うけど全然見えない。触っても大丈夫?」
ドラゴ君がいいと言ったので、母さんはいそうなところに手を伸ばした。
「ああ、何かいるわね。ドラゴ君なのね」
「うん、ぼくの声聞こえる?」
「声は聞こえるわ。エリーの付与すごいわね。これ商品化したら売れるわよ」
「でもこのローブみたいに付与がしっかりつく特殊な素材でないと」
「何の素材なのかしらね」
「うーんとね、多分ホワイトドラゴンだと思うよ。でも討伐したものじゃなくて、脱皮でできた柔らかい皮だよ。ぼくも会ったことないから断言できないけど」
うん、ホワイトドラゴンなんか出来れば会いたくない。
「討伐するとね、すごく怒った後だから皮が固くなっちゃうんだ。
そうなると鎧にはいいけどローブには向かない。
脱皮した皮をもらえるのはドラゴンと友達になったヒトだけなんだ。
それにめったに脱皮しないからね」
なるほど、討伐よりもっと難易度が上がるんだね。これは商品化無理です。
ドラゴ君はローブの下に私の作ったカバンを下げて、その中にミランダを入れた。
「ミラ、これから仲間が出来るかもしれないからな。大人しくしてるんだぞ」
「みぃ」
ドラゴ君はすっかりミランダのお兄ちゃんぶりが板についています。
父さんは魔獣商には行かずお留守番だ。ここセードンは避暑地なのだがベルッポ街道の要所でもあり、いろんな業者が仕入れをする玄人向けの市場が立つ。
その中に冒険者なら買ってもよいという市があった。だから冒険者でない父さんは入れなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。