第99話 ジョシュの回想2 幼友達
王宮にはエドワード殿下と歳の近い上位貴族の少年たちが集められていた。
そこには30人ほどいた。
この日はふさわしいかどうか見る面談だったようで、おもちゃを与えられてみんなで適当に遊ぶように言われただけで殿下には会えなかった。
僕はその時お気に入りだった積木遊びを始め、近くにいた子たちに一緒にやらない?と声を掛けた。何人かで銘々に作って見せ合ったり、積み木を取り換えっこしたりしてそれなりに楽しんでいた。
その時、少し離れた場所で静かに本を読んでいたのがリカルド・ルカス・ゼ・クライン伯爵令息だった。
僕はその時は本なんて嫌いだったから初めは声を掛ける気もなかったが、彼が本を読むふりをしてこちらのことを見ているので積み木遊びしたいのかなと思って声を掛けた。
「ねぇ、こっち見てるんだったら、きみもいっしょにあそばない?」
「ありがとう。わ……ぼくはいいよ」
彼は即座に断り、僕も来ないならそれでいいと思ったが少し気になった。
よく見ると彼が見ているのは、僕らだけでなく他の子どもたちも見ていたのだった。
後で知ったのだが、その時リカルドは殿下の遊び相手にふさわしい子供を選別していたのだった。
どの子どもに協調性があるのか?リーダーシップを発揮するのは?誰かを苛めていないか?お付きががいないと泣き出さないか?など、いろいろあったみたいだ。
同い年のリカルドはそのころから神童と謳われ、天才的な能力を発揮していた。
5歳にして彼は大人には見せない子供の裏の顔を見るために、あえて子どもたちだけで遊ばせていたのだ。
その時理不尽なわがままで体の小さな子供を殴っていたある公爵令息は遊び相手から外され、今は跡取りからも外されて冷遇されていると聞く。
小さな子供に対して厳しすぎるのでは?とも思うのだが、小さい子供であればあるほど隠す能力がなく本質が現れるから今のうちに排除した方がいいと判断したのだそうだ。
それからしばらくたってまた王宮に呼ばれると前はたくさんいたのに、10人になっていた。
その前にリカルドが立ち、みんなに宣言した。
「私はリカルド・ルカス・ゼ・クラインです。
皆さんはエドワード殿下の遊び相手として選ばれた10人です。私は皆さんの取りまとめをする役割を国王陛下より仰せつかりました。今後は私の判断で減らしていくので心して殿下にお仕えください」
5歳児だった僕にはすぐわからなかったが、大人達にはよくわかったようで後でリカルドには決して逆らわないようにときつく命令された。
まだ自分の家柄がどうとかこうとかいう奴も居なかったし、リカルドを偉そうだなと思いつつも大人の言うことに従っていた。
エドワード殿下と共にクリストファー・テレンス・ゼ・グロウブナー公爵令息も来てみんなで鬼ごっこをしたり、かくれんぼをしたりして遊んだ。鬼は子供ではなくお付きの騎士だったので、心置きなく遊んだのを覚えている。
リカルドは参加するときもあれば、しないときもあったが自分が遊ぶのに夢中だったので詳しくは覚えていない。
6歳になって男の子たちで遊ぶのに慣れてきたころに、ディアーナ殿下とその遊び相手の女の子たちと一緒に遊ぶことになった。
その時女の子の数が少なかったので2,3人抜けるように言われた。僕が女の子はすぐ泣くから嫌だったので抜けると別の場所に案内された。
その場所は姿を見せなくても楽器の演奏が出来るようにした中二階にある音楽室で上から下の様子見られるようになっていた。
小さな小窓から下を覗くと、ディアーナ殿下がエドワード殿下にダンスがしたいと言ったので、みんなで踊るところだった。
僕はダンスが嫌いだったので喜んでいたら、クリストファーも喜んでいたので一緒だねと2人でニヤリとしたのを覚えている。
リカルドはその時は無表情に下を見ていた。
何曲かダンスを踊っているうちに一人の女の子が癇癪を起して、相手の男の子に平手打ちを浴びせていた。
何事かと小窓にかぶりついて聞き耳を立てていると、どうやら少年の顔立ちが気に食わないから触るなと言っているようだった。
「何あれ?変な子。別にそんなにおかしくないのに」
「あんな態度の子ならこっちが触るなって言いたいよ」
「全くだ。愚かすぎる。一体だれがディアーナ殿下の遊び相手にあのような子供を選んだんだ」
上からクリストファー、僕、リカルドの発言だ。
僕はリカルドがなにか意見らしいことを言うのを初めてだったので、
「君もそんなこと言うんだね」
「もちろんだ。私はここにいるみんなの態度を見て殿下方にふさわしい側近を選ぶ立場なんだから」
「それ僕らに言っちゃだめじゃないの?」
くすくすとクリストファーが笑う。
クリストファーは魔法能力がずば抜けていてリカルドとは別の意味で神童と呼ばれていた。
僕も剣聖の称号を持ち剣技では神童と呼ばれていて、この部屋にいたのは殿下の遊び相手でなくなっても構わないと思っている3人だった。
「あれ誰なの?嫌な奴」
「ローザリア・テレーズ・ゼ・ミューレン侯爵令嬢だ。君のいとこに当るよ。カーレンリース辺境伯令息」
「ええ!あれが?なんかガッカリだな」
「とりあえず婚約者候補からは外さなきゃね」
「ああ、それがいいだろう。グロウブナー公爵令息」
「ねぇ、その呼び方、面倒じゃない?」
「面倒だが他の子どもも全員姓で呼ぶつもりだから仕方がない」
「では、僕らの間だけは名前で呼べばいいよ。僕はクリスで」
「じゃ、僕はユーリだ」
「……わかった。リックでいい」
クリスの提案のおかげで名前を呼ぶようになったせいか、僕らは何かあったら3人で集まって話すようになり仲良くなった。
仲良くなってみると、クリスはきつい顔立ちの割にソフトで優しいが魔法のことになると夢中で話が止まらなくなる。
リックはいつも冷静で大人以上に大人みたいな顔をして辛辣で厳しかったが、案外物分かりのいい頼りがいのあるやつで、生まれたばかりの妹をとてもかわいがっていた。
僕も含めてだけど神童なんて呼ばれていても中を開いてみれば、やっぱり少年で面白いことがあれば笑うし、やんちゃだってする。
僕は例の女装お忍びの後あまり街に出なくなっていたが、クリスと共にリックの案内で下町に出かけて怪しい魔道具店にいったり、下町でボードゲームをしている爺さんたちとチェスで戦ったりして結構楽しかった。
お付きはいたけど、3人で遠乗りに行ったり、騎士団の稽古を見に行ったりもした。
友達と遊ぶってこんなに楽しいのだな。
だからすっかり癇癪持ちのローザリアのことは忘れていた。
僕の2番目の兄上、アイヴァンと彼女の縁談が持ち上がるまでは。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。