第五章
第98話 ジョシュの回想1 コンプレックス
僕の名前は、ユリウス・ジョシュア・ゼ・カーレンリース。
魔獣の森からバルティス王国を守る辺境伯タイザー・エリオット・ゼ・カーレンリースの三男にして、神から剣聖の称号をいただいた者。
僕の使命はこのカーレンリース領で騎士となり、王国を守ることだ。
それを疑ったことは一度もない。
でもその使命を遂行するのには、不必要な容姿をしている。
僕の希望は父上のような屈強な男らしい姿なのに、絶世の美女と称えられた亡くなった母上そっくりの女のような姿なのだ。
僕のことを絹のように美しいサラサラの金髪に、琥珀色の瞳の地上に現れた奇跡の妖精という奴も居る。
そいつ(男)から7歳のときにおかしな詩を送り付けられて、僕は気持ち悪いのと同時に非常に困惑した。
剣をふるうのに妖精である必要なんか全然ないからだ。
奴が言うには、「美しさは力なのだから大いに利用するとよいのです」というが、お前みたいな奴が寄ってくるだけでコッチは迷惑してるんだ。
「見ているだけで幸せです」
お前らを幸せにするつもりなんか1ミリもない。そんな暇があったら魔獣を1匹でも多く屠るほうがいい。
まぁあいつはただの詩人きどりなだけだから、害は少ないし今はいなくなって清々している。
こんな感じで僕の周りにはおかしな奴が時々やってくる。
そんな奴らに優しくするつもりはないので、丁重にお帰り頂くのだ。
僕はこの姿で得をしたことなんてほとんどない。
おしのびで行った市場でちょっとおまけしてくれるくらいか。
その時兄上の案で嫌だったが村娘の格好して行ったら、誘拐されそうになって本当に気色の悪い思いをした。
スカートの下に剣を隠していたので全員返り討ちにしたら、父上にも騎士団長にも怒られた。
一応、殺さないように手加減したのに。
そんな姿でふらふら歩く僕が悪いと言われた。
どう考えたって子供を誘拐する方が悪いと思うんだが……解せぬ。
だから僕は嫌だったのに。貧乏くじを引いたとしか思えない。
でもおかげでそれ以来、女装をしろとは誰も言わなくなった。
香水臭い気持ちの悪い変態女ども(子供に言い寄ってくるのは変態だろ?)にたまに「ドレスが似合いそう。ウチにたくさんあるのよ」とか言われるが、そんなもの無視だ。そういうときはただ微笑みながら威圧してやる。
威圧は僕の中にある敵意を実際に相手に圧力としてかけるので、これをすると一発で黙る。
あまりきつすぎると漏らす奴も居るので、注意が必要だ。
そいつらの名誉なんてどうでもいいが、家の中を汚されたらたまらないからな。
掃除をする使用人がかわいそうだし、家具が傷むから僕が怒られる。
そんなこんなで僕はこの顔が嫌いだ。
たった5年の後妻だった母は2人の兄の世話をよくしていたらしいが、僕を産んだ時に亡くなってしまった。
母という存在には憧れはするけれど、この姿を見て母とは感じない。
絵の中でしか見たことがないからだ。そんな母の姿に似ていようとも、それが何だというのだ?
それよりも乳母のナタリーのような穏やかで優しそうな顔の方がいい。
少し垂れ目で笑うと顔がとろけたようになる。
僕もあんな感じのもっとおとなしい普通の姿がよかった。
そんなナタリーも僕が5歳の時に、家に戻ってしまってから会っていない。
なぜか問題が起こると思われたせいだ。
問題って何だろう?僕にはよくわからない。
ナタリーが去って、僕は王都へ出ることになった。
僕が第二王子のエドワード殿下と同い年だからだ。
エドワード殿下の遊び相手ということで、王宮に上位貴族の歳の近い少年たちが集められるためだった。
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