第66話 クラス委員
それからクラスごとに教室へ移動した。私が女子の列に並んだら一悶着起こった。
「なんで男子が女子の列並ぶのよ」
「えーと、それは私が女子だからです」
「女子寮にあなたいなかったじゃない」
「屋根裏部屋に一人で住んでます」
何それ~と騒がれたが、担任のヨーゼフ・カイゼル先生が来てみんな黙った。
自己紹介をするときに、自分が冒険者で男装に慣れていることと、ドレス代を浮かせるために男子の制服で通したいというと、みんななぜか笑った。
「お前、貧乏なんだな」と言われた。
お金はそれなりに持ってるよと思ったが返すのはやめておいた。
しかし、その後でカイゼル先生の爆弾が来た。
「トールセンが今年の最優秀奨学金授与者だ。みんな彼女を目指して勉強しろよ」
わーん!わざと黙ってたのに言わないでよ~
授業が終わった後ジョシュが、
「さっき言いよどんでたのこれだったんだ」
「うん、でも自慢してると思われると思って」
「あの数学の9問以降も解いたってこと?」
ここで簡単だったなんて言っちゃだめだよね。
「えーと、うん。似たような問題が受験対策で出てたんだ」
「そうなんだ。エリーってすごい秀才なんだね」
「多分受験対策が良かったんだよ」
「それでも難しかったよ。僕は6位だったよ」
あっでも、さっきの話じゃ4位じゃない。あんまりかわらない。
「全問正解者とは大違いだよ」
女の子たちからも攻め立てられた。
「なんで屋根裏部屋に住んでるのよ」
「私の従魔がちょっと特殊で従魔舎にも、従者の宿舎にも入れないから」
「何よ、その特殊な従魔って」
「えーと、じゃ呼ぶね。ドラゴくーん」
「はーい」
とってもよい返事と共にドラゴ君は転移してやってきた。
「従魔舎どうだった?」
「みんないい子だったよ。でもずっと僕がいたらみんなの気が休まらないから、これからもエリーの側にいるね」
ドラゴ君の突然の登場にみんな騒然となった。
「嘘でしょ。転移してきたの?」
「そうだよ。僕ぐらいなら出来るよ」
「ま、魔族なのか?」男の子が聞く。
「魔族じゃないよ。カーバンクルだよ」
あっ、この子魔族が転移できるの知ってるんだ。あれ?なんで私も知ってるんだろ。どこかで聞いたのかな。
「えっ?じゃあ人化?初めて見た」
「人化なんて高位の魔獣しか出来ないんだぞ」
そうこうしているうちに、次の授業を知らせる鐘がなり、ドラゴ君はまた転移してどこかへ行った。
次は副担任の女性の先生だけが来た。
これから校内を案内してくれるという。当然Aクラスからなので、待ってる間にクラス委員を決める話になった。
「はーい、成績優秀なトールセンさんがいいと思いまーす」
そうだそうだと騒がれた。
なんだか嫌な感じだ。
本当にそう思っているんじゃなく、役目を押し付けようという気満々だった。
そしたら、「僕がやります」と手が挙がった。
ジョシュだ。
「なんだよ、いい格好するなよ」
「なんでこれがいい格好なんだよ。僕がやるって言ってるだけじゃないか」
「それがいい格好なんだよ」
「君知らないんだ。クラス委員でポイントもらえるの」
「何?ポイントって」
「学校に貢献をした生徒にもらえるポイントで高ければ評価も上がるってこと。エリーは今の時点で学年1位だ。これでクラス委員もやったら、本当に誰も追いつけないぞ。それでもいいのか?特に次点だった誰かさんはさ」
サッとクラス全体に緊張が走った。
「まぁあの9問以降を解けるエリーに学問で追いつくのは大変だけど、次点までだったら追いつけるかも。そしたら、来年の2位奨学金授与者は僕になるかもしれない」
このクラスはみんな平民のクラスだ。
貧富の差はあるが、誰だって卒業後の借金は少ないのに越したことはない。
「私、やります」
「いや、俺がやる」
「僕だって」
何人もの立候補が上がり、結局くじ引きになった。
ジョシュは外れたが別に気にしてなさそうだった。
当たった女の子はマルト・ドロスゼンという、眼鏡(ジョシュほど厚くないけど)の勉強が出来そうな子だった。
泣いて喜んでいた。
もしかして次点だったの?
その間、副担任のアンナ・ターレン先生は何も言わなかった。
なんとなく舌打ちしたような気がしたのは気のせいかな?
それから校内案内になり、薬学室や運動場などを巡り今日は解散になった。
お昼をジョシュとマリウスと食堂で取ることになって、食堂の片隅を陣取った。
「ジョシュ、クラス委員残念だったね」
「ううん、別にあれでいいんだ。僕は本気でやる気なかったよ。やる気がある人が一番いいんだ。ドロスゼンは喜んでたみたいだし」
「俺はやっても、奨学金にはかすりもしないからな」
「でもターレン先生感じ悪かったね。エリー気を付けなよ」
「ジョシュもそう思った?」
「あのポイントの話は先生がするべきだったんだよ。僕の兄さんの時は先生が教えてくれたんだ。なのに黙ってエリーが責められているのを聞いてるなんて」
そうだったんだ。
「ありがとう、ジョシュ。助かった」
「どういたしまして。でもこれでクラスの上位成績者がわかったね」
「そんなのわかってどうするんだよ」
「あのなマリウス、これからグループ行動も多くなるんだ。もちろん行動の内容にもよるけど誰が勉強が出来るかわかれば、そういう行動の時にグループに誘えば有利に運べるってこと」
「例えば?」
「グループでレポート作成するときにあんまり勉強が得意でない子より、そこそこわかる子の方が分担もできるしやりやすいだろ。
逆にダンジョンへ行くときは戦闘能力が高い方がいい。その点僕らはラッキーだ。
エリーは学年1位の頭脳と冒険者の経験と強力な従魔までいる。
それに仲間は話をして面白い方が絶対いいじゃないか」
「そうだな、女っぽくはないがその分気楽だしな」
「なんだかちょっとけなされてるような気がするけど、まぁいいか」
それにしてもジョシュ。さすが文官目指しているだけに策士だね。
ドラゴ君はこのやり取りを黙って聞いていた。最近彼はこんな風に自己主張しないでいることも多い。
ただなんとなくいつもより警戒を強めている。そんな気がした。
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