第40話 裏道


 ルイスさんの店へ歩いている途中でいろいろとお店ががあったので、雑貨屋で小さめの蓋つき陶器の入れ物を5つ買い、薬品店で体に使えるオリブの油も購入した。

うむ、これで女性陣へのお礼は準備万端。



 樽が重すぎるのか足取りの遅いロバに合わせて私たちもゆっくりと歩いていた。

「タミルさんのせいで遅くなっちゃったから、ちょっと早道してもいい?裏道通るんだけど」

「あっ、ハイ。わかりました。ごめんなさい、僕も買い物したから」



 裏道をさらに歩くと人気がどんどん少なくなった。





「ルイスさんのお店、裏通りなんですね。あんまり流行らないんじゃないですか?」

「そんなことないよ。蜂蜜みたいな甘みはね、なくったって生きていけるけどあるだけで幸せになれるんだ。だから危険な地域に行っても買いに行くし、お客さんもちゃんといるんだよ」

「そうなんですね」



 裏道にはとうとう私たちしかいなくなり、そのせいかなんとなく無言が続いた。

ルイスさんは居心地が悪くなったからか話しかけてきた。



「エリン君、どうしてルエルトだってわかったの?」

「あーやっぱり、そこ突っ込んじゃいます?」

「鑑定できるんだね。前も僕の樽の付与、わかっていたし」

「ハハハ」

「それに顔がきれいだなぁって思ってたけど女の子だったし。秘密がいっぱいだね」

「ハハハ、自衛のためです。女の子の一人旅は危ないんで」

「そうだね。でも生活魔法もすごいし、鑑定も出来るなんて完ぺきだよね」

「……それって、奴隷として完ぺきってことですか?」

 ルイスさんは黙ってしまった。



「いろいろおかしいと思ったんです。ルイスさんみたいな旅慣れた人がやたら身元を確かめるようなことを聞いてくるなんて。

冒険者は詮索しないって鉄則ですよね。

なのに聞いてきたからギルドで講師をしてくれたリノアさんの身の上を話したんです。スキルの事もやたら知りたがってましたもんね。

奴隷を売るときは能力がわかっている方が高く売れますもんね」


「じゃあなんで付いてきたのさ」

「信じたかったから」

「だから田舎者は嫌なんだ。僕はちゃんと忠告したはずだよ。能力に自信があるからって裏道には行かないことってね」

 その言葉と同時に逃げようと走り出すと、

「逃げるぞーー!そいつは水と鑑定持ちの上物だ。絶対に捕まえて!」



 その言葉と同時に5本ほど矢が飛んできた。短剣で打ち払ったが1本手に掠ってしまった。

「痛っ!」

 そのせいで短剣を落とし、膝をついて手傷を抑えていると、下卑た笑みを浮かべた男が5人現れた。



「ルイス、やったな」

「これで、もう解放してくれるんですよね」

「はぁ?お前のその間抜け面が魔法学校の子どもを油断させるんだよ。これからも働いてもらうぜ」

「そんな!約束が違います!!もう10人、やったじゃないですか」

「うるせー」

 ルイスさんが腹を殴られて地面に倒されていた。



 同時に別の男が私の髪をひっつかんで顔を上げさせた。

「おい、こいつ思った以上に上物ですぜ。あの子爵様に売れるんじゃないですか?」

「馬鹿言うな、水と鑑定だぞ。もっと高く売れるぜ」

 残りの近寄ってくる男の手には黒い鉄でできた鎖付きの首輪があった。

隷属の首輪だ。



「触らないで」

「なんだと、ハハハ、お前に何ができるって言うんだ」

「もう一度言う。私に触らないで」

 男は私の髪をさらに強く引っ張ろうとしたがもうできなかった。



「ぎゃあああああああああ」

 私が無詠唱のウインドカッターで手首を切り落としたのだ。

 男の手首から血が噴き出し痛さのあまり地面をゴロゴロと転がった。



「何だと⁈」

「何が起こったんだ?」

 男たちは無詠唱の魔法に驚き、他に敵が隠れていないか周りを見回した。

無詠唱の魔法は基本的に人間には出来ないとされているからだ。



 この人たちは10人以上誘拐している。

 殺したくなかったけど、殺さないといけない。



『冒険者は魔獣や犯罪者の命奪う仕事。だから奪われても文句言えない。続ける?』

 ルノアさんの声が聞こえる。

(続けたくないけど、続けます。私はまだ生きていたいから)



 私は怪我をしていない左手を前に突き出した。

そして無詠唱で(ウインドバレット風の弾丸)と念じた。



 すべての指からバレットが飛びだして、ルイスさん以外の5人の頭を打ち砕いた。



 それを見ていたルイスさんが私の事を、

「ば、化け物……」

 嫌悪感いっぱいの震える声でそう呼んだ。



「ああ、ルイスさんは私が狩りするところ見たことなかったんですね。冒険者の多くが化け物みたいな力を発揮できるんですよ。私言いましたよね。Dランク相当のワームだって倒せるって。多分今はもっと強い敵でも倒せますよ」



 私はルイスさんに近づいて言った。

「さぁどうします?あなたは脅されていたみたいですし、私と一緒に出頭するなら犯罪奴隷になるだろうけど、まだ生きていられますよ。その方がいいと思います。

奴隷にした生徒たちの売り先を教えてくれたら情状酌量もあるかもしれません」



 でもルイスさんはさっき私が落とした短剣を拾って振りかぶるように私に切りかかってきた。

 慣れない攻撃に脇腹がガラ空きだった。

 だから隠し持っていたナイフでルイスさんの脇腹に刺した。



「あっ」

 そう小さく叫んだルイスさんは震えながら倒れ込んだ。



「そのナイフ、状態異常がランダムに出るんです。しびれ薬か幻覚か毒なんですがどれでしょうか?」



 ルイスさんは答えを言わず、震えるのをやめてしまった。



「毒、だったんですね。残念ですルイスさん」



心は冷えているのにどうしてなのか、涙がこぼれた。





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