第39話 王都到着

 

 只今、馬車の1人を除いて全員がうんざりしている。



「だから、これは私がダンジョンから取ってきたって言ってるでしょうが」

「だからその証明を見せてくださいと言ってるんです」

「そんなもの冒険者ギルドにありますよ。なんだったらアンタらが見に行けばいいでしょう」



 このやり取り、30いや40回は聞いた。例の魔獣の卵のおじさんである。



 このおじさんがいようといまいと私たちは全員荷物を確認された。

 私のトランクには男物と女物の服が入っていたが女の一人旅は危ないので男装する冒険者は多いし、それに受験票をちらりと見られただけで終わった。裏書きの効果もあったのかもしれない。

 マジックバッグの存在自体もバレなかったので従魔の卵も無事だしめでたしめでたしだったんだけど、このおじさんのせいで馬車は動けなかった。



「もういい加減にしてほしいよね」

「さすがにあのやり取りだけでここまで引き延ばすなんてすごい心臓です。僕には商人無理かも」

「いや、あれは特別だよ」

 ルイスさんと樽の上で話し続ける。



「本当なら証明できないんでしょうか?鑑定使うとか」

「ダンジョン産って書いてあるならともかくね。鑑定でそこまで見分けられないよ」



 えっ、そうなの?私の鑑定ではルエルトダンジョン産って出てるけど。

 つまりおじさんの言うことは本当なんだ。



「でもどこのダンジョンかは言えるでしょ。取ってきたんだから」

「それだって前の話だって出来るわけじゃない?今回限定だってことを証明しないといけないんだよ」

「難しいですね」

「うん」

うんざりのため息をつくしかなかった。



「そういう魔獣の卵の証明ってどうやって出してもらうんですか?」

「そうだねぇ、ダンジョン産の時はダンジョン攻略の成果をギルドに出すときに一緒に取れたことを報告するんだ。もしダンジョン以外で見つけたら、親の死骸の一部を納品する。そしたらギルドが証明を出してくれる」

「おじさんはもらわなかったんでしょうか?」

「通常だったらないね。タミルさんは長年専門で魔獣の卵を扱ってるんだ。相手の兵士が無下に出来ないのもそのせいだよ。でも証明のないものは王都へは入れられないのが規則だし」

「つまり証明はもらってるかもしれないってことですよね」

「可能性はある」


「ルイスさんはそういう証明をもらったらどこに入れます?」

「うーん、財布、契約書の紙入れ、服のポケットかな」

「ルエルトってだいぶん北部ですよね。着ていた服が今と違うんじゃないかな」

「どういうこと?」

「つまり、今は着ていないからトランクの底になっている服のポケットにあるんじゃないかってことです」



 ルイスさんがタミルさんにこの可能性を伝えて、トランク中の服のポケットを探ったら証明書はみつかった。

 タミルさんは喜び、私たちはもっと喜んだ。

 1時間はこのことで待たされたと思う。



 お詫びにということでみんなに銅貨3枚くれたが、正直早く王都へ入りたかった。

 しかも私には払わないでおこうとしたのだ!ルイスさんの連れだから、ルイスさんの分でいいだろうって。

 ケチなのにもほどがある!


 でもルイスさんが、

「では知恵を貸した分、金貨1枚いただきましょうか?それともこの子に銅貨3枚払うかどちらにします?」

 当然タミルさんは銅貨3枚をえらんだ。



 やっと王都に入ることができた。

 王都はものすごく高い城壁で守られていた。これはマジックアイテムで、どんなも防ぐとされている。

 ただし魔獣は通してしまう。エンシェントドラゴンの襲来がそのいい例だ。



 王都は石畳で舗装されたきれいな道が続く美しい町だった。

 家々は黄色い煉瓦で四角く作られていて、窓辺には花が咲き、住宅の入り口は全部緑色だった。

 色を揃えているおかげで、とても目に優しい。



 店の扉は食品は赤、それ以外は青と決まっていて、そのそばにジョブを表す黒い鉄製の看板を付けるのが決まりになっている。

 だからレストランだと料理の絵の描いてある看板と赤い扉、宿屋で料理も出すところは、料理の絵とベッドの絵2つの看板があり、青い扉なのだ。



 とりあえず私の宿屋へ行って部屋を決め、ルイスさんのお店に行くことになった。



 指定された宿屋に行って受験票を見せるとおかみさんが部屋まで案内してくれた。

「遠くからよく来たわね。ここは女の子専門の宿屋だから安心してね。かわいいお部屋でしょ」

 そうなんだ、ルイスさんに女だってバレたかも。

「ええ、とっても素敵です」

「女の子なのに男装しなきゃいけないなんて大変よね。ここでは楽にしてね。」

「ありがとうございます。あの冒険者ギルドへの道を教えていただけますか?」

 おかみさんは丁寧に教えてくれた。




 宿屋の外に出ると蜂蜜いっぱいの樽を6樽も乗せた荷馬車をロバに引かせているルイスさんがいた。樽には布がかけられてがっちり止められている。

「じゃ、僕の店に行こうか」



 そうしてルイスさんの店へ歩き始めた。







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