第34話 出会い


「おはようございます。これから2週間よろしく願いします。僕はエリンです」



 この緊張関係のある馬車に乗り込んでの第一声。

 皆であっけにとられたが、一番初めに行動を取ったのは、対外担当のクララ。

「おはよう、私はクララ。この子はビリーよ」

 エリンと名乗った少女がクララの子どものふりをしている俺の手を取った。

「よろしく、ビリー」

 握手した瞬間に俺の魔力を感じ取ったらしい。

 一瞬だけ筋肉に緊張が見られたが、すく取り直してクララと話し始めた。



 俺の魔力を感じるとはなかなかの才能なので、魔眼で調べてみる。

するとなんじゃこりゃーな内容で二重に驚いた。






 エリー(偽名 エリン)

 10歳


 水属性魔法 風属性魔法 無属性魔法

 魔力量 502


 スキル習得大 努力 器用

 音楽 楽器演奏 絶対音感 共鳴 調和 調律 リズム 

 料理 製菓 製パン 

 家事

 調薬

 園芸 飼育

 裁縫 刺繍

 採取 狩猟

 付与 魔法付与

 鑑定

 計算 

 言語能力 文字解読 

 複写

 整理整頓

 描画

 発掘 

 研究

 細工

 清廉

 短剣 投げナイフ 弓矢 槍 棒

 罠製作 罠解除

 索敵 気配察知 気配遮断

 男装 演技

 マナー 立ち居振る舞い

 

 


 ジョブ

 錬金術師、楽士〈薬師 学者 技師職は錬金術師に統合されました〉



 称号

 賢者の卵

 女神ヴェルシアの加護

 鍛冶神アウズの友愛

 ダンジョンマスター ダンマスの友愛



 

 加護持ちの上に、賢者の卵ときたか。面白いじゃないか。



 馬車を乗り換えさせようとビューラムが画策しようとするが、

「裏書をご覧になってください。僕の後援者です」

 そこにはラインモルト枢機卿とエイントホーフェン伯爵夫人の署名があった。

 貴族の従者を黙らせるには相手の主人よりもっと上に自分の後援者がいると示す。悪くないやり方だ。



 だが案の定、ローザリアのヒステリーが炸裂する。

「エイントホーフェン伯爵夫人は男を教えたりはしないわ!このうそつき!!」

「おっしゃる通りです。わたくしは女でございます。あなたのお嬢様のように護衛を4名も付けられませんので自衛のため男の成りをしております。

お疑いでしたらクララさんに体を改めていただきましょう」

 全員グルだってもうバレてるよ。そりゃ12人乗りに5人しか乗っていないしな。



「アンタの負けだよ、ローザリア。この子は間違いなく女だよ」

「わたくしにそのような口を」

「どのような口だって?」

 お前こそ俺と対等に話す資格なぞない。

 目をそらしていたが、その気になれば目線など合わせずとも脳みそをぐちゃぐちゃに出来る。



「ウチの対象者が失礼をした。俺らはクランの『常闇の炎』。クランマスターのビリーだ。同名のAランクパーティーも率いている」

「ただの平民のエリーでございます。お見受けしたところ、ビリーさまはSランクでもおかしくないお力のお方。Aランクでよろしいのですか?」

「フン、Sなんかに上がったら王国の首輪が却ってキツクなるからな」

「なるほど、おっしゃる通りでございます」

「なぁ、そのメンドクサイしゃべり方何とかなんねーか?」

「じゃあ、僕も男言葉にさせてもらう。外の冒険者には知られたくないしね。名前もエリンで頼む」


 俺の魔力に慄きながらも、媚びずにさっぱりした態度で好感が持てた。

 ルードやクララも気に入ったらしい。

 さすがヴェルシアの加護持ち。



 ビューラムの一言で会話が終わってしまったが、なかなか興味深い。

 ローザリアはお前さんを追い出すためなら、暴力も辞さないと言っている。

 さて賢者の卵よ。

 お手並み拝見。





 賢者の卵はお昼休憩で馬車が止まってすぐに乗合馬車の御者に他の馬車に空きがないか聞いている。

「実はさぁ一緒に乗ってるお嬢様に絡まれてんだよ。降りないなら放り出せってさ。こえーよ」

「ああ、あんお嬢様、あと一人同乗する者はどこにいる。すぐに契約を破棄させろって、オレにも言ってきてよぉ、そんなのオレが知るわけないのによぉ。運が悪かったな、坊主」

「そんなこと言わないでさ、頼むよ。なんか爺さんが金くれるっていうし。分け前渡すからさ」

「そういわれちまったら、助けてやらないでもないぜぇ。前の馬車に商人が多いし、金で場所開けてくれるやついるかもしんないぜぇ」

「わかった。ありがとな、おっちゃん」

 うまく情報を引き出して御者に金を渡してる。

 なぁ確かスキルに清廉ってあったよな。どこでこんな手管覚えたんだ?



 次は草原を索敵し手早くラビットを2匹倒して、無詠唱で血抜きをする。俺に見られているのに全く気が付いていない。

 そろそろ声をかけるか。

「ほう、無詠唱か。なかなかやるな」



 するとまるで死神に出会ったみたいに真っ青な顔色になり、

「頼む!馬車変わる算段付けるところだから命だけは助けてください」

 泣きながら土下座しはじめた。

 おいおい、いったい俺の事をなんだと思ってるんだ?



「……、別に殺さないけど?」

「うそだ、殺しに来たんだろ。油断させてばっさりなんだろ」

「本当だから」

「ホントに?じゃあ、あともうちょっと後ろに下がってくれる?」

「しょうがないな」

 と俺は後ろに下がる。

 すると向こうも後ろに下がる。



「もうちょっと」

 俺が下がる。

 向こうも下がる。



「もうちょっとだけ」

「お前、俺の事馬鹿にしてるのか?」

 ビクビクしながらも妙な余裕を見せるのでちょっと気色ばんでみる。



「だって怖いもん。鑑定しなくったって魔力莫大だもん」

「まぁ、そうだけどよ」

「絶対隠蔽できるもん、私なんか小指でちょいだよ!」

「まぁ、そうだけどよ」

 小指もいらないけどな。



「うわぁ~ん、やっぱり~!」

「うるせぇな、(冗談だけど)殺すぞ」

 ちびっと言っただけなのに、キュウと泣いて卵は気絶してしまった。

 威圧入っちまったかな?



 馬車まで運ぼうかと思ったが5歳児の姿では目立つので、心話でクララを呼び出して来てもらった。

「マスター、10歳の女の子ですよ」

「俺は悪くないと思う」

「じゃあなんで気絶してるんですか?」

「俺に殺されると思い込んで気絶した」

 しょうがないとクララは賢者の卵を、いやエリーを膝の上に乗せた。



 しばらくすると目を開けたので一安心。

「あ、気が付いた?ごめんね。マスターがびっくりさせたんでしょ」

「俺は悪くないからな」

「こんな小さな子にマスターの威圧浴びせたらそりゃ意識失います」



「あっ、ラビット」

 えっ?まずそれか?

「ごめんね、悪くなるといけないからルードが今調理中よ」

「血は抜いておいたんでちょっとは大丈夫です。それよりルードさんお肉食べるんですか?」

「半分人間だからね」

「そうですか……」

 さっきまで殺されると思っていたくせに別のことしか聞かないんだな。



「馬車、出て行かないとダメですよね」

「ウチの対象者は容赦ないからね。むしろ今後の事を考えて移った方がいいわ。

あなた結構面白そうな子だから私たちは構わないんだけど」

「移ります。ちょっと商人と交渉してこなくちゃ。イテテ体めちゃくちゃ痛い」

 クララから傷用のハートポーションを手渡され、素直に飲んでいた。

 おい、殺されるはもういいのか?



 ビューラムが代わりに乗り換え交渉してくれていると知ると、興味は魔族の事にいったらしい。

「魔族もハーフエルフも初めて見るから知らないんだけど、本当に残虐なんですか?」

「戦うときにはね。でも普段は平和主義よ。マスターはちょっと柄が悪いけど」

「よかった。じゃあ種族が違ってもおんなじなんだね」


 そうだよ、俺もそう思う。

 自分の力を知る手段として戦うことが好きなやつはいるが、それは魔族だけでなく、人間にも大いにいる。

 俺としては人間の方が楽しみながら殺す奴が多い気がする。



 最終的にはエリーとルードが取ったラビットを、みんなで食べた。

 ちらりとみてみるとやたらうまそうにかみしめながら食っていた。

 とりあえずもう殺されるとは思っていないようだ。



 ビューラムがエリーの席を確保したので、彼女は行ってしまった。

 夜休憩になって様子を見に行くと料理の準備をし、狩りに出かけて行くところだった。エリーは獲物を見つけ、ナイフを取り出した。

 


 ああ、それじゃ取りに行かなきゃダメだろうが。



「自分で取りに行くの面倒じゃねえのか?」

「ビリーさん、こんばんは」

「面倒だろうが」

「まぁそうですね」



 それで簡単な魔法を教えてやる。ウインドバレット風の弾丸アトラクティング引き寄せだ。

 やってみせたら、ものすごく喜んだ。



「やってみろ」

 そう言えば、いとも簡単にやって見せる。

 なるほどさすが賢者の卵。



「あ、あの魔法って教えてもらうのってすごくお高いんでしょう?」

「そうだが、まぁなんだ、女の体を傷つけた詫びだ」

「はぁ?女?わた、いや僕まだ10歳だよ」

「そういうことでまけといてやる」


「ありがとう。でもそのモルモット僕が持つよ」

「なんで?」

「5歳児に重いものを持たせる10歳。外聞が悪いです」

「チッ、ただの擬態なのにめんどくさいな」

「まぁまぁ、ビリー君。お兄ちゃんが持ってあげるからね」

「なんか馬鹿にされてるような気がする」

「ソンナコト ナイヨ ボク ワルイ ニンゲンジャ ナイヨ」

「それを言うのはこの口か」


 お前本当に俺が怖くて気絶したヤツか?

 おちょくられてる気がする。


 俺はエリーの唇をつまむと、ちょこっとだけつねった。

「また傷物になってしまった……」

「もう教えねーからな」

「バレたか」



 どうやらこの卵はかなりの大物らしい。

 2人で笑うと、なんだか気分も晴れてくる。

 どうやら俺はこいつが気に入ったみたいだ。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る