第17話 ハミル様のお道具箱
髪を切ろうとして何か切るものを探そうとマジックバッグをごそごそしてたら外の方が騒がしくなった。冒険者たちが来たのだ!
今は髪を切るよりも隠れた方がいい。私は慌てて休憩所の奥で息を潜めた。
ガヤガヤとした声は聞こえるけれど会話は聞こえない。奥まった岩陰にいるから仕方がないけど。
それが1時間ほど続いたときに、
「ちょっと待って、なんか気配がする」
そう言って誰かが休憩所に入ってきた。
私は(ここに私はいないいないいないいない)と願えるだけずっと強く願った。
「あれ?気のせいだったかな」
「どうしたんだよ、リンク」
「いや俺の気配察知に何かが感知したんだよ」
「バカか、休憩所には魔獣は入れない。ボスの気配感じただけなんじゃねー?」
「そうかなぁ」
「おい、そろそろリポップするらしいぞ。これ逃したら30分待ちだぜ」
「ああ、急ごう」
そう言って足早に立ち去った。
それからさらに1時間経っても誰も来なかった。私たちが昨日来た時間より遅いから、しばらく人が来ない確率は高い。
とりあえず見つかってもいいように髪を切ることにした。少年ならば襲われない。
なら少しぐらい外に出てもいいはずだ。
何か聞かれたら、小遣い稼ぎにスライム狩りに来たって言うんだ。普通はダンジョンに来ないだろうけど。
太いお下げをこのまま短剣で切ろうと思ったがのざんばら髪では却って怪しまれるのではと不安になった。
それでもっといい何かないかマジックバッグを探して見たらニール武器店で買ったハミルさんのお道具箱が見つかった。
全然開けてなかったし、今なら時間がある。中身を調べることにした。
明けてみると------布張りのふわふわした赤い絹地の中には銀色の美しいハサミと大きめの手鏡が入っていた。
何これ?私武器買ったんじゃなかったの?
もっとよく見ると蓋の方も赤い絹張がされていて角のところにポケットがあって紙がはさんであった。
道具箱に選ばれたお方へ
この道具箱にはいろいろな武器や道具が入っています。
そして今あなたに必要なものだけが出る仕組みになっています。
一見、今必要なものではないと思われても必ずどこかで必要となりますのでどうぞ
疑わずお持ちください。
複数の道具が必要な時は複数出ますのでご心配いりません。
単数の時はそれしかいらないという意味なので、そちらもご安心ください。
これからも困ったときにはぜひ開けて見てください。
あなたに神のご加護があらんことをお祈りしております。
そしていつかあなたにお目にかかる日を楽しみにしております。
バルティス国公爵
アリステア・ハミルトン・ゼ・バルティス
……何これ。ものすごいマジックアイテムじゃない!
こんなすごいものが作れるなんてアリステア・ハミルトン・ゼ・バルティス公爵閣下はすごいお方だ。
母さんが言った通り、第一級魔法士に違いない。
これ本当に私のものでいいのかしら?国宝級といってもおかしくないと思う。
それともお貴族様にはこんなの当たり前なのかしら?
そして手紙の通り、今一番必要なはさみと鏡が入っていた。
ありがとうございます、ハミル様
ありがとうございます、鍛冶神アウズ様
ありがとうございます、知恵と正義の神ヴェルシア様
有難く使わせていただきます。
そして私は生まれて初めて髪を切った。
明後日で10年切ってなかったことになったのに。
お下げのまま大まかに切って、鏡を見ながら細かく修正をして多少は見られるくらいにはなったかな。切った髪は細かいものも大きいものも全部袋につめてマジックバッグにしまっておいた。
髪は惜しかったけど何より大事なのは無事に帰ることだ。
ヴェルシア様、どうか私をお守りください
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。