絶望と希望
その後空は、救急車によって病院に運ばれた。私と担当の先生が同伴して病院に向かい、真っ先に空の手術が行われた。その待合室で、今か今かと待っていた時だった。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
空のお母さんが息を切らしながら来て、私と目を合わせた。それに思わず目を逸らしてしまう。
(謝らなきゃ…謝らなきゃ……)
だけど…怖い。
私の所為でこうなったのに。
「アリス…」
「ごめ…なさい…私のせいで…私のせいで……こんな…」
そんな私を、めいいっぱいの力で抱きしめてくれた。
「話は聞いてるわ。怖かったでしょ。決してアリスの所為じゃないし、それを庇った空は誇りに思うわ。それに、手術してるのが誰だと思ってるの?あの人を信じなさい」
手術しているのは、空のお父さん。初めて聞いた時は驚いたが、外科医の先生だという。腕前はとてもいいらしい。
「…はい」
そう言った時、手術室のランプが消えた。そこから運ばれてくる空と、汗をビッショリとかいた空のお父さん。
「空は…空はどうなりましまか!?」
真っ先に聞がなければ気が済まず、食いついて話す。空のお父さんの顔色は良いとは言えず、気分がドンドン悪くなっていく。それを隠すように笑みを浮かべて言葉を出す。
「……流石俺の息子だ。しぶとさで言えばゴキブリ並だ。まず、脳に欠陥はねぇ。破片も脳には刺さってねぇから後遺症は残んねぇ筈だ。だが、破片は刺さってなくとも脳にクソでかいダメージが残ってやがる。こればっかりは俺もどうにも出来ん。アイツの回復を待つしかねぇ…」
後半から笑みが消え、お父さんは最後に舌打ちをした。
「そんな…」
「まぁ…あの状態で動いてたって話は聞いてる。俺らは耳を疑ったよ。あの状態で意識を自力で回復させて動いてたってのは、ハッキリ言って人間の出来るレベルを超えてる。だから今度も、そんな化け物じみた力でどうにかするさ」
「……私に…出来ることはありませんか?」
「…現状ねぇな。だが、毎日通い続けてやれ。初めて自分の事をずっと好きでいてくれたお前が居てくれれば、アイツの心も安らぐ筈だ」
「……はい!!」
………
……
…
いつもみたく、私は病室のドアを開いて花を入れ替える。その花は、少し恥ずかしいけど11本のバラの花。これだと私が来たと直ぐにわかるから。
すると、ドアが強引に開かれて息を切らした隼也が入ってくる。
「はぁ…はぁ…はぁ…アリスちゃんか…」
「うん…」
「ごめんな急に押しかけて。空が救急車で運ばれてたからさ。その…こんなこと聞くのもあれだけど……容体ってどうなってる?」
病室に入ってきて空に目を向けると、私は顔を無意識のうちに俯かせた。それに気づいた時には、もうすでに隼也は言葉を出していた。
「よくねぇのか…」
「うん…」
隼也は眠っている空に向かって歩き、声を出した。
「アキラにも来いって伝えたんだけどよ『あの空が頭カチ割られた程度で死ぬわけねぇだろ』ってさ」
「ははっ…アキラらしいね」
「『アイツが入院している間に差を詰めてやるぜ』って顔もしてたし、多分空のこと信頼してんだろ」
アキラの言葉をとても信頼しているようだった。だけど何故だろうか、何処か懐かしむような顔をしているのは。
「なんで…そんな懐かしい顔してるの?」
「……いや実はさ、コイツが中学2年の時の選手権、俺試合を観戦してたんだ」
空の中学時代は空の口から聞きたかったけど、それより空の事が気になってしまう欲が勝った。
「空は、中学の時どんな人だったの?」
「…スッゲェ印象深かったよ。2年でセンターフォワードやっててさ。自分でゴールを突き破る貪欲な獣を思わせたかと思わせたら、味方にパスを回す仲介役の司令塔にもなる。チームは完璧にアイツ中心で回ってて、他人がゴールを取ったら自分の事ミテェに喜ぶんだよ」
その光景は、妄想だけど頭の中に浮かぶ。サッカーをしている空は、とても楽しそうだったから直ぐに思い浮かんだ。
「空らしいね」
「あぁ…ワリ、邪魔したな。後は好きな人とゆっくり堪能しててくれ」
隼也は冗談を言いながら病室のドアを開いて、外へと出て行ってしまった。その時ようやく気がつく。今の自分が、いつも空の前で見せている自分ではない事に。本当の私は、もっと明るくて、空が大好きで、大好きで、大好きで、大好きで…
「……ねぇ空!!起きてよ〜!!ほらほら〜!起きないとキスしちゃうよ〜?良いのかなぁ〜?」
いつもなら直ぐに起きる。なのに…なんで…
「起きてよ〜空〜!今なら空にイタズラし放題だぞ〜!?空も私のこと好きみたいだしさぁ、もう襲っても合法だよね!」
「……」
「ねぇ!いつまでも眠ったフリなんて…してないで…さ…お願い…だから」
自分を強く見せよう、そう思ったけど……やっぱり無理だった。
「お願い…空……起きてよ…空が居ないと…私」
………
……
…
「ん…んぅ」
私はいつの間にか、椅子に座った状態でベットに頭を預けた状態で眠ってしまっていたようだった。
「……やば…もう夜じゃん…」
反対側の窓を見ていると、月明かりが私を差している。それに苦笑しながら帰りの準備をしようとした時だった。
「そうだな。だけどこんな時間だからここで一泊してったらどうだ?」
「…………え?」
脳の処理が追いつかない。一瞬頭が真っ白になると同時に私を襲ったのは、歓喜と高揚。
前を向くと、見慣れた瞳と交差する。私を勇気付けてくれる、優しい瞳と。
「そ…ら…」
「ただいま、アリス」
「…うっ…うぁ…お…かえり…空…」
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