クジラの心臓

作者 イトリトーコ

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★★★ Excellent!!!

 久しぶりに「良い」という言葉しか浮かばない作品に出会えた事に、まずは感謝したいと思います。ありがとうございます。

 考えてみれば、SFというのは幻想小説と極めて相性が良いのかも知れません。或いは、SFの一側面を幻想小説という分野が占めている、と言うべきでしょうか。

 本作は、SFをベースとしながら巧みに織り上げられた幻想小説であると考えるべきなのかも知れません。

 隕石の衝突によって滅ぼうとしている地球から脱出するために作られた宇宙船である《クジラ》の心臓部として生き続ける少女ウィアが本作の1人目の主人公ですが、正に人類のための犠牲として「人柱」に具された彼女が《クジラ》の崩壊を見届ける最後の生き証人になっている、という構成がまず読んでいて好きでした。《クジラ》内部に築かれた都市の崩壊や、当初の人々の理想が残酷なまでに崩れ、荒廃して行く様も、滅びの美学としてうっとりさせられる物があります。

 それに対して、2人目の主人公、ウィアが改造されてしまう事をあくまで拒否し、彼女と一緒に逃げようとした青年、ビトマの物語もまた、美しい物でした。彼は地球と共に運命を共にする訳ですが、ウィアの事は決して忘れず、《クジラ》の後を追い続けます。「ビトマの心は走り続けた」というあの描写を導き出した作者の手腕、センスの良さには感服する他はありません。あれだけ詩的な言葉が強いリアリティを持って迫って来るという体験、それが出来るというだけでもこの物語を読む価値はあるはずです。また、忘れないビトマと、忘れ果ててしまったウィア、というコントラストもまた、物悲しくも美しいアクセントをこの作品に添えている気がします。

 最後の終わり方も私は好きでした。それは、彼女の幻視した夢が、ある種の予知夢であると共に、かの「彷徨えるオランダ人」の様に永久に宇宙という名の広大な海を彷徨い続ける過酷な運命に囚わ… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

紡ぎ出される言葉が幻想的な光景を描き出し、酔うようにその世界を漂いました。とても詩的で素敵な一編でした。
短い中に果てしなく広がるイメージを凝縮してあって、何度もでも楽しめそうです。
言葉の選び方が柔らかく優しく感じて、それも心地よかったです。もう少し言葉選びに時間をかけてもよかったかもしれません。