5話 カラオケボックスにて

 皆で青雲高校を出て、駅前まで男女6人で歩いていく。


 高台に住んでいる愛理沙はバス通学なので、自転車を持っていない。

青雲高校から家が近い聖香と楓乃も自転車通学していない。だから自転車を持っていない。


 女子達3人は鞄だけを持って、3人並んで楽しそうに歩いている。

男子達は女子達の後ろを自転車を押しながら歩く。



「おい、湊、楓乃と聖香だけでも可愛くてきれいなのに、今日は愛理沙も一緒だぜ。俺達、本当にツイてるよな」


「そうだね。3人もタイプの違う美少女が揃うと気後れするね。今日は俺がホスト役を務めるよ」


「さすが湊だぜ。俺は女子達に美声を聞かせてやるぜ。日々、ジムで鍛えているからな」


「それは歌声じゃなくて、雄叫びだとおもうけど……」



 男子3名は女子の後ろ姿を見ながら、コソコソとそんなことを話している。


 女子達3名の中で聖香のスカートの丈だけが非常に短く、歩いているとヒラヒラして、見えそうで危険だ。

思わず視線を外して愛理沙を見る。


 愛理沙は雪のように白い素肌に艶々のロングストレートの黒髪が良く似合っている。歩き方も1本の板の上を歩いているかのようにきれいで脚が長くて美しい。


 いつも公園で会っている時は、寒さ対策でダボっとした私服を着ているので体のラインを隠しているが、肢体が長くて、モデルのような体型をしている。


 学校でも美少女NO1と言われるだけのことはある。楓乃と聖香も美少女だが、愛理沙のほうが1歩抜きん出ている。


 楓乃とは人当りが良く、人見知りしないのですぐ愛理沙と仲良くなったようだ。

聖香も嬉しそうに微笑んで会話を楽しんでいる。

愛理沙も少し微笑んでいるのが見える。


 愛理沙が人と仲良くしている姿を見ると、なぜか涼は少し嬉しい気持ちになる自分がいる。


 この間の公園での愛理沙の言葉を覚えているからだろうか。

愛理沙には幸せになってほしいと思う。


 駅前のカラオケボックスに着いた6名は自転車を置いて、カラオケボックスの中へと入っていく。

それぞれにカウンターでスマホを見せてクーポンを使用する。湊が店員に部屋番号を聞いて、皆でカラオケの部屋へと入っていく。


 部屋の中に荷物を置いて、それぞれにフリードリンクでドリンクを作る。涼はアイスコーヒーを作って手に持つ。

愛理沙はアイスミルクティだった。他の者もそれぞれにドリンクを手に持って部屋へと戻る。


 モニターから一番近い所に座ったのは陽太だった。その隣に聖香が座る。部屋の受話器に近い場所に湊が座った。

向かいの席に楓乃が座り、隣に涼が座る。そして涼と少し距離を離して愛理沙が座った。



「1番は俺が行かせてもらうぜ」



 コントローラーを持って陽太が曲番号を入力する。



「次は私だよ」



 そのコントローラーを奪って聖香が曲番号を入れて、隣に座っている湊へコントローラーを渡す。



「俺に拒否権はないようだね」



 湊は微笑みながら、コントローラーを受け取って曲番号を入力すると、愛理沙にコントローラーを渡した。

愛理沙はコントローラーを渡されると、何もせずに涼へと渡す。涼はコントローラーを見て苦笑を浮かべる。


 涼は洋楽の歌は良く聞くが、カラオケで歌える曲もなく、歌声にも自信がない。


 そのまま楓乃にコントローラーを渡すと楓乃が不満そうな顔をする。



「涼も歌えばいいのに。英語の歌でもいいじゃん。誰も知らない歌なんだし……間違っても誰もわからないじゃん」


「皆、英語の授業を受けてるじゃないか。発音を間違えたりすると恥ずかしいよ。歌声にも自信ないしさ。俺は見ているだけでも楽しいよ」


「もういい。私が先に歌っちゃうからね」



 楓乃は納得していなかったが、涼への説得を諦めて、コントローラーに曲番号を入れて、陽太の前のテーブルに置く。


 曲が大音量で流れてきた。新しい新曲だろう。涼は誰が歌っているのかもわからない。陽太は立ち上がってノリノリで歌っている。


 陽太の横では嬉しそうに笑顔で聖香が手拍子をうっている。

楓乃もマイクを持たずに体を横に揺らして歌っている。とても楽しそうだ。


 聖香の番になると、聖香は立ち上がって、アイドルの振り付けで踊って歌う。

聖香の歌は歌声、振り付け、表情も完璧で、涼達は多いに盛り上がった。


 涼はドリンクがなくなったので立ち上がって、愛理沙の前を歩く。ちらっと愛理沙のほうを見るとドリンクが空になっている。ドリンクバーに行って、自分の分のコーヒーと愛理沙の分のアイスミルクティを作って、部屋へ戻る。



「ドリンク……ありがとう」


「楽しんでる?」


「皆、楽しそうだなって思って見てる。私は心に穴があるから、皆のように心から楽しめないから羨ましいかな」


「そうだね。純粋に歌を楽しめるって良いことだよね。俺も皆が羨ましいよ」



 愛理沙が少しだけ涼の近くへ座り直す。



「涼…私…いつもの公園に行きたい。皆が羨ましくて辛くなる」


「わかった。じゃあ、少し経ってから2人で抜け出そう。後から皆に謝りの連絡を入れておけば大丈夫だよ」


「……ありがとう」



 皆がカラオケに熱中して、モニターに視線を集中し始めた。

涼は愛理沙と一瞬だけ視線を合わせて、先に部屋を出るように言う。

愛理沙が部屋を出ていってから、少し経ってから椅子の上にお金を2人分置いて、涼も部屋を出る。


 カラオケボックスを出て、自転車を置いている場所へ向かうと愛理沙が微笑んで立っていた。



「ありがとう。幸せ過ぎる空気で圧倒されちゃった。外に出てきて少しホッとしたわ」


「そうだね。外は風もあって気持ちいいね。愛理沙は高台までバスに乗って帰るかい?」


「ううん。涼と2人で歩いて帰る。そのほうが外にずっといられるから。高台に着いたら公園へ行きましょう」


「ああ、そうだね。丁度、夕暮れの時間帯だね。いつも通りに公園でゆっくりしよう」


「そうね。いつもの通りにね」



 愛理沙はふわりと嬉しそうな微笑みを浮かべて涼の隣に並んだ。

夕陽を背にして、2人でゆっくりと高台までの道を歩いていく。

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