第93話 疑心の街

 辿り着いたギルドの入り口は、さっきの宿と同じく固く閉ざされていた。

 ううん、目に入る範囲の建物は総て、扉も窓もしっかりと閉まっている。もしかしたら、まだこのアウルに残っている人達がバルザックを警戒してるのかもしれない。


 宿の時と同じように、まずはサークが扉をノックする。すると今度は、すぐに返事が返ってきた。


「……誰だ?」

「冒険者だ。ここに戦う気力のある奴が集まってると聞いて来た」


 サークが告げると、扉の向こうに一瞬の沈黙が降りる。けれどすぐに、カチャリ、と扉の開く音がした。

 現れたのは、右目に傷のある鎧姿の男の人。男の人はサークと私に無遠慮な視線を向け、それから不満げに顔をしかめた。


「…名声が欲しいだけなら止めとけ。これは遊びじゃねえんだ」

「そんなのじゃありません! 私達、ちゃんと実力はあります!」

「口でなら何とでも言えるんだよ」


 容赦ない物言いに私は反発するけど、向こうの反応は冷たいものだ。それにイラッときた私が更に言い募ろうとしたその時、男の人の背後から聞き慣れた声がした。


「……今の声はクーナですか?」

「ベル!」


 私の声に応えるように、男の人を押しのけて白い鎧の色男――ベルが顔を出す。その顔は私を見ると、少しだけ綻んだ。


「クーナ……と、野良……いえ……サーク。丁度いいところに来てくれました。あなた達がいてくれれば心強い」

「ベルファクトさん、お知り合いで?」

「ええ、二人とも実力は確かです。私が保証します」


 こんな時でも外面を整える事を忘れないベルに一周回って感心を覚えつつ、ひとまず成り行きを見守る事にする。男の人はまだ少し不満げだったけど、ベルを信用してるんだろう、やがて道を空けてくれた。


「相変わらず外面の良いこって、神官戦士様」

「文句なら後で聞きます。まずはこちらへ」


 自分よりベルの方が信用されてるのが気に入らないのかサークが刺々しく皮肉を口にするけど、この程度じゃベルの化けの皮は剥がれない。私はまあまあとサークを宥めながら、ベルについてギルドの中に入ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る