第79話 四皇の実力
「どうしたァ? ビックリして声も出ねェってツラだなァ」
驚きに声も出ない私に、バルザックが得意気に嗤う。一方でサークは、青ざめた顔でバルザックを睨み付けていた。
「……テメェ、精霊の命を吸ったのか」
「ご名答。俺に生命を吸い付くされた精霊は、氷の結晶に姿を変える。後はちょっと強めに小突いてやりゃあ……」
そう言って、バルザックは凍った木に向けて拳を振り上げる。その拳が木に直撃すると――木は、バラバラになって砕けた。
「この通り、ってな」
……そうか。サークの顔色が悪くなった理由が解った。
エルフには、精霊の存在や力を感じ取る力がある。だから人間も霊魔法を使う今の時代になっても、霊魔法の使い手として最も優れているのはエルフだと言われている。
だから、きっと、精霊の死に際の苦痛もまた、サークは感じ取ってしまうのだ。そんなの――残酷すぎる!
「……わざわざそれを俺達に見せたのは、俺達にテメェの力を防ぐ手段がないと踏んでの事か」
「ちょっと違うな。テメェらだけじゃねェ、誰だって俺の力は防げねェ。絶対なる氷の帝王にして『
余裕綽々といった感じで、バルザックがまた口角を上げる。よっぽど自分の力に、絶対の自信があるんだろう。
けど――。
「『我が内に眠る力よ、爆炎に変わりてこの身に宿れ』!」
私は解放の言葉を唱え、両腕に激しい炎を纏わせる。それを見てバルザックがヒュウ、と口笛を吹いた。
「随分勇ましいじゃねーのォ。凍ったなら溶かしゃいい、ってか?」
「あなたの好きにはさせない。この世界は、私達が守る!」
「『
言葉とは裏腹に、歓喜に吠えるバルザック。私は地を蹴り、バルザックへと向かっていった。
「ハアアアアッ!」
動かないバルザックに全速力で近付き、真っ直ぐに燃える拳を突き出す。けど驚くべき事に、バルザックはその一撃を生身の腕で受けた。
「なっ!?」
「その程度の炎じゃ、オレ様は燃やせねェよ!」
驚愕に一瞬動きを止めた私に、バルザックが鋭い蹴りを放つ。反応が遅れた私にそれをかわす事は出来ず、バルザックの足は私のお腹にめり込み、そのまま後方に蹴り飛ばされた。
「クソッ!」
宙に浮いた私の体を、サークの腕が受け止めた。サークは風の精霊を呼び出すと、風の刃をバルザックに向けて放った。
「ハッ、そよ風だなァ!」
けれどバルザックは刃が体を切り刻むのなんて物ともせず、そのままこっちに突進してくる。そしてサークに狙いを定め、掌を突き出した。
「テメェは死ね! 精霊使い!」
「させない!」
何とかダメージから立ち直った私は、その腕を横から殴り付ける。掌は軌道を逸れ、サークの顔の真横を通り過ぎた。
「一度で効かないなら、何発も殴ってあげる!」
僅かにバルザックがバランスを崩した隙を逃さず、お返しとばかりに胸板目掛けて拳を繰り出す。その拳がバルザックに直撃した時、私は強い違和感を覚えた。
「っ、固い……!?」
「オラオラァ! 殴りまくるんじゃなかったのかァ!?」
再び硬直した私の腕を、バルザックが掴もうとしてくる。私がすんでのところでそれをかわすと、入れ替わるようにサークがバルザックのお腹に強烈な蹴りを叩き込んだ。
「……っ何だ、こりゃ……!?」
驚きの言葉を口にしながら、軽くバルザックがよろめいた隙に、サークが私を連れてバルザックから距離を取る。そしてすぐさま体勢を立て直したバルザックから、私を庇うように立った。
「今の感触……明らかに生き物を蹴った感触と違った。テメェのその体は何だ?」
「ああ、オレ様達の世界の人間と違って、こっちの世界の人間は何の特徴もないんだったなァ。冥土の土産だ、特別に教えてやる。オレ様は鉱物の特性を持った輝石族。この体は、ちょっとやそっとの攻撃じゃ傷付かないぜェ?」
言われてみれば、先程サークの風の刃に切られた筈の体からは、血の一滴も流れてない。私の炎も、だから生身で受けられたんだ……!
「……さて、テメェらの実力は大体解った。『
わざと隙たっぷりにゆっくり腕を回してみせながら、宣言するバルザック。そんなバルザックの様子に、私の中に焦りが広がる。
バルザックは強い。サークが私を気にせず全力で戦うぐらいしないと、きっと倒せない相手だ。
――私は、サークの足手まといなの?
嫌だ。――そんなの嫌だ!
「……わああああああああっ!」
「クーナ!?」
気付けば私はサークをすり抜け、バルザック目掛けて走っていた。無謀だって解ってた。それでも、体は止まってくれなかった。
「どれ、最後のチャンスだ。全力の炎をぶつけてみろよ。オレ様を倒せるかもしれないぜ?」
それに対し、バルザックは構える事すらしない。それが悔しくて、悔しくて、私はありったけの力と魔力を拳に乗せた。
「なら望み通りに! 『
「……なァんてな」
けれど、私が拳を突き出した、その時。バルザックの手が素早く、私の手首を掴んだ。
「なっ……」
「どうやらこの小手が炎の元らしいなァ。なら……
そうバルザックが言うと同時に、小手がみるみる氷に覆われていく。ひいおじいちゃまが使っていた、大切な、大切な……。
――そして。
「ジ・エンドだ」
「止め……!」
私の目の前で。
銀色の小手は、氷の粒と化して儚く砕け散った。
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