第76話 暗雲
「……でも、どうして、私がここにいるって解ったの? ギルドでは誰が何の依頼を受けたか、秘匿される筈でしょ?」
散々泣いて、やっと泣き止んで。私は、気になっていた事をサークに聞いた。
「下位精霊をギルドに忍び込ませて、調べさせた。実体化さえさせなきゃ、精霊は目に見えないからな」
「……悪いんだ」
「それだけ必死だったんだよ、こっちは」
クスリと笑う私が面白くないのか、サークが小さく眉根を寄せる。そういえばサークはいつも私の為に必死になってくれてるな、なんて、そんな自惚れた考えが脳裏をよぎった。
でもこれが自惚れじゃなくても、きっとそこに恋愛感情はないんだろう。私はサークにとって、半分娘みたいな存在だから。
「それでさっき村に着いて、村人を叩き起こしたら、寝ぼけてたのか勝手に全部ゲロってくれてな。急いでここまで来たんだ」
「じゃあ、この村の現状は……」
「ああ。知ってる」
知っていて、それでも、私の「依頼を最後までやり遂げたい」って意思を尊重してくれたんだ……。その事が、何だかとても嬉しく思えた。
「だけど、どうする気だ? 魔物は確かに死んだが、村の奴らは多分、依頼が遂行されたとは認めないぜ? 今まで魔物の影で、散々上手い汁を吸ってきたんだからな」
「うん、だから、ギルドで直接ありのままを話そうと思ってる。村の人達も自分の生活を守りたかっただけなのかもしれないけど、被害が小さくない以上擁護は出来ないよ」
「ああ、俺もそれでいいと思う。……本当は村人全員ブン殴ってやりたいが、アイツらをどうするか決めるのはギルドと国だ」
サークが私の意見に賛成してくれて、少し自信がつく。私、少しくらいは、自分で正しい判断が出来るようになってるかな?
「……この際だから言っとくが、俺はお前を十分信頼してる」
不意に、サークが話題を変えた。私から少し目を逸らした顔は、ほんのりと朱に染まって見える。
「まだまだ経験は足りてないが、実力は同じ歳の頃のクラウス以上だと俺は思ってる。だから……もっと自信を持て」
「サーク……」
同じ歳の頃のひいおじいちゃまより、実力が上。そんな褒め言葉、今までサークから聞いた事がなかった。
私、今まで、自分はきっとひいおじいちゃまにはまだまだ及ばないって思ってた。もっともっと努力しなきゃ、ひいおじいちゃまには近付けないって。
でも、もしかしたら……自分で思ってたよりも、私は、ひいおじいちゃまに近付けているのかな?
「……足、少し引きずってるな」
そんな事を思ってると、また話題が変わる。マンティコアの毒の血を浴びた時の痺れは、未だ癒える事なく右足を蝕んでいた。
「うん……でも平気。歩くぐらいなら……」
「……ちょっと動くなよ」
「え? ……ひゃあっ!?」
言葉の意図が解らずに目を瞬かせていると、サークがおもむろに私の背中と膝の裏を支えて持ち上げる。え、え……これって、お姫様抱っこって奴じゃ!?
「ササササーク!? いきなり何するのっ!?」
「何って、この方が移動が早いだろうが。いつ村の連中がここに様子を見に来るか解んねえし」
「だ、だからって抱き上げ方っ」
「黙ってろ。走るから舌噛むぞ」
「そっ、そんなぁ……」
私はなおも抵抗しようとするけど、宣言通りにサークに走り出されてしまえば、何も言えなくなる。仕方無く、振り落とされないようサークの首もとにしっかりとしがみついた。
心臓がバクバクと、大きな音を立てるのが解る。その音がサークにまで伝わってしまいそうで、妙に焦った気分になる。
でも。でも、叶うなら。
(……少しでも長く、こうしていられますように……)
そんなささやかな我が儘と共に。洞窟の入口は、みるみる近付いていった。
村に戻らず直接ギルドに戻った私達は、早速事の顛末をギルドに報告した。私達の報告にギルドではすぐに調査隊が組まれる事となり、私達もその間はシュヴァリエに拘束される事になった。
そして戻ってきた調査隊の報告を受けたギルドから、私達は衝撃的な事実を知らされる事になる。
――問題の村が、何者かに氷漬けにされ全滅した、と。
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