第2章 中央大陸編

第65話 誰よりも特別なあなた

 サークと初めて出会ったのは、私が五歳の時だった。



 あの日の事は、今でも鮮明に思い出せる。私はひいおばあちゃまに手を引かれ、ひいおばあちゃまのお客様に一緒に会いに行った。

 お客様がどんな人なのか、何故かひいおばあちゃまは何も教えてくれなくて。不思議だったけど、ちょっぴりワクワクしたのを覚えている。

 ひいおばあちゃまに連れられた先には、一人の人がいた。耳が長くて、背の高い男の人。お母様と話をしていたその人は、私達に気付くとこっちを振り返った。


 その瞬間、私の世界には――私とその人しか、いなくなった。


 綺麗な人だった。サラサラの砂色の髪に、宝石みたいに輝く紫の瞳。肌も白くて、まるで物語に出てくる妖精みたいだった。


『……あなた、だぁれ?』


 頭で考えるよりも早く、私はそう口にしていた。その人は暫くキョトンと私を見ていたけど、やがて不思議そうに聞き返してきた。


『君は?』

『わたし、クーナよ。……あっ』


 それに答えた瞬間に思い出した。ひいおばあちゃまが言っていた、私が生まれる前に亡くなったひいおじいちゃまと一番仲が良かったエルフの話。

 同時に、理解した。この人が――ずっとずっと会いたいって思ってた、「サークおじさま」なんだって事を。


『わかった! おみみがながいから、あなたがひいおじいちゃまといちばんのなかよしのサークおじさまね! わたし、ずっとおあいしたかったの!』


 そう言った時のその人の顔は、今でも忘れない。眩しそうな、懐かしそうな、泣きそうな……色んな感情が、ごちゃ混ぜになったような顔。

 一瞬にも、永遠にも思えた時間。やがてその人は、くしゃりと顔を歪ませて。


『……ああ、そうだ。はじめまして、クーナ』


 そう言って、嬉しそうに、笑った。



 あの頃の私は、まだ子供すぎて。「好き」に種類があるって事も、ちっとも解ってなかった。

 でも。でも、きっと。


 あの日から、その人は――サークは、私の「特別」になったの。

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