第60話 史上最悪の戦い

「クーナ、どうなっている。何故、奴が私達に剣を向ける!」


 私と違って状況を飲み込めていないベルが、焦った声で言う。無理もない。私だってサークから敵の能力を知らされてなかったら、やっぱり何が何だか解らなかった筈。


「さっきの赤い光。あれに操られているの!」

「なら、何故私とお前には効かない!」

「神の血を引いてる人間には、あの光が効かないってサークが言ってた。だからベルもきっと……!」

「……こんな私が神の子孫か。皮肉な事も……待て」


 私の説明に自嘲気味に笑っていたベルだったけど、その言葉が途中で止まる。私もまた、ある一つの事実に気が付いた。

 あの光は私達だけじゃなく、広場にいる全員・・・・・・・に直撃した。つまり……。


「殺せ!」


 突然辺りが怒号に包まれ、私は息を飲む。見れば周囲の人達が、一斉にこっちへと向かってきていた。


「殺せ! 邪魔者を殺せ!」

「ヴァレンティヌス様に従わない者に死を!」

「クソッ……ここは一時しのぎにしかならんが……!」


 ベルが咄嗟に印を結び、シールドの魔法を広域に展開させる。殺到してきていた人達は、見えない壁に阻まれてそれ以上近付いてこれなくなった。


「へぇ、あの戦士、なかなか厄介な魔法を使うね。まずは彼から潰そうか」

「了解、ノア様」

「っ、させない!」


 シールドの魔法を展開している為身動きが取れないベルを救う為、私はサークとベルの間に割って入る。そんな私を小馬鹿にするように、サークが嗤った。


「お前に俺を止められると思ってるのか? お前に戦い方を教えた、俺を?」

「そんなの……やってみなくちゃ解らない!」


 そうだ、どんなに絶望的だって私は諦めない。だって、約束したんだから。

 もしもサークが操られたら……ブン殴ってでも元に戻すって!


「ホント、威勢のいいお嬢さんだよ。……ヴァレンティヌス様に逆らった事を後悔しながら、死にな」


 私を見るサークの目が、スッと細められた。と同時、サークの足が地面を蹴り私に急接近する。


「なんの!」


 流れるような動作で胴を狙った一撃を、私は小手で受け止める。時々する手合わせの時とは全く違う重たい衝撃に、腕に微かな痺れが走る。


「受けを選ぶか。ま、賢明だな」


 いつもと同じサークの口調に、これはただの手合わせなんじゃないかと錯覚しそうになる。でも違う。これは、命懸けの戦いなんだ。

 矢継ぎ早に繰り出される、サークの斬撃。それは私に、反撃の隙を一切与えない。

 どこかで攻めに転じないと、このまま体力を削ぎ落とされるだけだ。私の動きの癖を全部知ってるサークを出し抜くには……。


「……!」


 その時脳裏に浮かんだのは、ある一つの手段。サークの知らないコレ・・を使えば……洗脳が解けるほどの一撃を、サークに与えられるかもしれない!


「そら、ボディがお留守だぜ、じゃじゃ馬!」


 そう決心を固めた瞬間、サークの曲刀が私の両腕を纏めて上に弾く。それにより、私の胴体はがら空きの状態になった。


「よく粘ったがここまでだ。あばよ」


 そこにサークが深く懐に潜り込み、曲刀を一閃させる。私は全力で後ろへ飛ぶ事で何とかそれをかわしたけど、代わりに大きくバランスを崩した。


「寿命が一瞬延びただけだったな!」


 すかさずサークが私にとどめを刺すべく、大きく踏み込んでくる。……タイミングは今しかない!


「……『限界開放リミットバースト』っ!!」

「!?」


 テオドラとプリシラに教わった、魔道具の起動コマンドを口にする。するとみるみるうちに体が軽くなり、力が溢れ出すのが解った。

 これなら……やれる!


「何をする気か知らないが、これで終わりだ!」


 驚きながらも攻撃の手を止めなかったサークが、斜め上からの一撃を放つ。それを私は、高く飛び上がってかわした。


「……やああああっ!!」


 そして一瞬だけ無防備になった頭に、私の回し蹴りが炸裂したのだった。

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