第50話 対立の構図

 ショウヘイさんの住むアオキ村には、その日の夜には辿り着く事が出来た。サイキョウは村も独特で、屋根は木じゃなくてワラみたいなのが敷き詰めてあった。サークの説明では、これは「茅葺かやぶき屋根」っていうサイキョウ伝統の技術なんだって。

 詳しい話は明日、村長さんの家でするという事で、その日はショウヘイさんの家に一泊。ショウヘイさんは独身で、村で暮らす人も年々減ってるせいで出会いがないと溢してた。

 そして翌朝早く、私達はショウヘイさんに連れられ村長さんの家を訪ねたのだった。



「……お前達が、あの女を村から追い出す為に来た冒険者か」


 村長さんは私達を見て、開口一番にそう言った。村長さんの周りでは私達の事を知った村人さん達が、身を寄せ合ってこっちを睨み付けている。


「追い出すかどうかは、双方の話を聞いてこちらで判断します。俺達は、あなた方の言いなりになる為に来た訳じゃない」

「何だと!? 依頼人の言う事が聞けないってのか!?」


 すっかり二日酔いも抜けていつもの調子を取り戻したサークに、村人さん達の怒号が飛ぶ。けれどサークは、努めて冷静にそれに言い返した。


「これはギルドを通した依頼じゃない。個人的な依頼だ。つまり続けるも止めるも、こちらの自由という事になります」

「……ショウヘイ。どういう事だ?」

「す、すみません村長。ギルドは、人間の犯罪行為は管轄外だと……」


 村長さんに厳しい視線を向けられ、ショウヘイさんはすっかり恐縮したように縮こまりながら何度も頭を下げる。それを見て深く溜息を吐くと、村長さんは再び私達に目を向けた。


「……仕方がない、か。ならば先にこちらの言い分を言うとしよう。ハッキリと言う。あの女は、この村に災いを呼ぶ存在だ」

「それって、占い師さんが悪い事してると思ってるから?」

「それもある。それもあるが、その事を差し引いても、今村では不幸が相次いでいる。全部、あの女が来てからの事だ」


 私の質問に、村長さんは厳しい顔を崩さず答えた。周りの村人さん達も、揃って同じ表情で頷く。


「人為的に起こせる不幸もあるが、そうでない不幸もあの女は当てる。だがあの女が来るまでは、そこまで頻繁に不幸が起こる事はなかったのだ」

「だから占い師が不幸を呼んでいる、と?」

「そうでなければ説明がつかん」


 これにも村人さん全員が頷いている辺り、少なくともここにいる村人さん達の意見は一致しているようだ。うーん……不幸そのものを呼ぶだなんて、本当にそんな事出来るのかな?


「一刻も早くあの女を追い出し、元の平穏な生活を取り戻したい。それだけが、我らの望みだ」


 そんな私の疑念を知ってか知らずか、真剣な瞳で村長さんはそう締めくくった。



「……サークはどう思う?」


 占い師が住居にしている家を聞き、外に出ると、私は口を開いた。サークは一つフウ、と溜息を吐き、顎に手を遣りながら答える。


「正直何とも言えねえな。ただの偶然と言えばそうだし、もしどこかの異世界が関わってるなら、不幸を呼ぶ力も有り得そうな気がする」

「うん」

「ただ言えるのは、占い師側にわざとこの村に不幸を起こすメリットがないって事だ」


 それは私も考えた。もしお客さんを増やす為に不幸をわざと起こしたんだとしても、ここまで警戒されるレベルで起きたんじゃ元も子もない。

 つまり、占い師に自主的に不幸を起こす事は出来ない。そう考えていいと思う。


「とにかく、占い師側にも話を聞かねえとこれ以上は判断出来ねえな。素直に話してくれりゃいいが……」

「おい」


 そんな会話をしながら歩いていると、行く手に、小さな人影が立ちはだかった。私達は会話を中断し、その人影を注視する。

 現れたのは、サイキョウ風の服装に身を包んだ小さな男の子だった。男の子はまるで親の仇でも見るような目で、私達を正面から睨み付けている。


「ボク、どうしたの?」


 私は身を屈め、なるべく視線を合わせるようにして問いかける。すると男の子は精一杯低く作ったであろう声でこう言った。


「……お前達、カゲロウさんを追い出しに来たんだろ」

「え?」


 耳慣れない名前に、思わずキョトンとなる私。そんな私を、男の子はますます強く睨んできた。


「とぼけるな! 大人達がカゲロウさんを追い出すよう余所者に頼みに行ったって、おれはちゃんと知ってるんだからな!」

「カゲロウさんって……もしかして、この村の占い師?」

「やっぱり! カゲロウさんを追い出すつもりだな!」


 戸惑う私達に、男の子はビシッと指を突き付ける。そして、大声で宣言した。


「カゲロウさんはおれが守る! この村から出ていく事になるのは、お前達の方だ!」


 そう言って、男の子は私達に背を向け走り去っていった。その背を見送りながら、サークがポツリと呟く。


「……面倒な事になりそうだな、ったく……」


 ふと空を見上げると、晴れていた空には暗雲が垂れ込めてきていた。

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