第24話 秘密の冒険
私達はまず生き残った犯人達を手持ちのロープで縛り上げ、動けないようにしてから王都まで戻った。私とサークはともかく、ドリスさんは自力で動ける状態じゃなかったからだ。
そして王都に戻ってすぐ、ドリスさんは一時的に入院となった。ドリスさんの骨はやっぱり折れていて、繋がるにはヒーリングを何度もかけ直さないといけなかったからだ。
ヒーリングの原理は、治療を受けた人間の自己治癒力を一時的に高めるもの。だから怪我が重いと効き目が薄く、欠損した箇所はそもそも元に戻らない。
一応どんな怪我をしてもあっという間に元通りにするリザレクションっていう上位の聖魔法もあるんだけど……。使い手はとても稀少で、五十年に一度現れるか現れないかっていう話だ。
話が逸れちゃった。私とサークはドリスさんを病院に残し、支部長さんに事の顛末を報告した。そしてすぐ衛兵が遺跡に派遣されたんだけど……そこで意外な事実が明らかになった。
私達が倒した犯人の一味は、皆行方不明になっていた衛兵や、フレデリカを拠点にしていた冒険者達だったのだ。それも生き残った全員が、ここ一ヶ月ほどの記憶があやふやなんだという。
新たに事件の担当になった衛兵の人達は、罪を認めたくないから嘘を吐いてるって思ってるみたいだけど……。それを聞いたサークは、何だか難しい顔で黙り込んでしまったのだった。
「ねえサーク、一体何を気にしてるの?」
衛兵の人達から話を聞いた日の夜。私はサークに、思い切ってそう聞いてみた。
「え? いや……」
「二年もずっと一緒にいるんだから、サークに何か心配事がある事くらいすぐ解るよ。……私にも、言えない事?」
重ねて聞くと、サークがより難しい顔になった。そのまま暫く考え込んでいたようだったけど、やがて顔を上げると、真剣な顔付きで言った。
「……そうだな。お前には話してもいいかもしれない。いや、寧ろ今となっちゃお前以外には話せない」
「どういう事?」
「クーナ。俺がした
言われて、私の脳裏に小さい頃の思い出が蘇る。私が小さい頃、サークは自分とひいおじいちゃま、そして多くの仲間達との冒険譚を語って聞かせてくれた。
その中に三つ、絶対に他の人には言っちゃいけないって言われた話があった。それがサークの言う、秘密の冒険。
一つは自分の生んだ人間を滅ぼそうとする、創造神との戦いの話。
一つは創造神が世界を作る前に倒して大地に封じた、古代神を巡る話。
そしてもう一つは、こことは違う世界から侵略してきた異神を退ける話。
それはまるで、全部おとぎ話のようで。でもサークがいくら子供相手だからって、そんな嘘を吐く人じゃないって解ってた。
だからこれはきっと、嘘のような本当の話。それを私だけに話してくれた事が嬉しくて、私も他の人には、例え家族にだって絶対に言う事はなかった。
「勿論、覚えてるよ。私の一番大好きな冒険の話だもの」
「今回の件には恐らく、そのうちの一つ……異神が大きく関わってる」
「え?」
思いもがけない言葉に、私は思わず目を見開く。そして異神の話について、詳しい記憶を手繰り寄せた。
異神はこことは異なる世界で、神として奉られていた存在。異神のいた世界は滅亡の危機に瀕していて、だから私達の世界を乗っ取ろうとした。
異世界から来た異神の配下達は、この世界の人間にはない様々な能力を持っていた。中にはこの世界の人間を操って、自分の手駒に加えるような奴も……。
「……あっ」
そこで私は、サークの言いたい事に気付いた。ビビアンと名乗る女の子が使った謎の力。まるで誰かに操られたような衛兵の人達。それが総て、異神の手によるものなら。
サークは言っていた。神をも滅する事の出来る神剣『神殺し』。その継承者である勇者リトでも、異神に深手を負わせて元いた世界に押し返し、異世界への通路を封じるのがやっとだったって。その時に一人、大切な仲間も失ってしまったって。
その異神が今――再びこの世界を狙って動き始めたって言うの?
「これはまだ、推測の段階だ。しかも異神と異世界の存在は、今や知ってるのは俺とお前だけだ」
「で、でも! もし本当に異神の仕業なら、このままにしておいていい訳ないよ!」
「ああ。だからこれからは、異神の絡んでいそうな事件を中心に追おうと思う。頼みの綱はクーナ、お前だ」
「え? ……私?」
意外な言葉にキョトンとしていると、サークが大きく頷いた。そしておもむろに、私の右脇腹を指差す。
「お前は神の子である古の魔導王ウェスベルグの血を引いてる。お前の腹にも付いてる、クラウスの代からアウスバッハの一族に付くようになった星形の痣はその証だ。そして神の血は、異神の支配をはね除ける」
「それって……私には洗脳が効かない?」
「そういう事になる。もし万が一、俺が奴らに操られるような事になれば……その時はぶん殴ってでも目を覚まさせてくれ。頼めるのは、お前しかいないんだ」
……それは予想以上に、責任重大だ。本気のサークに、私がどこまで太刀打ち出来るか解らないけど……やるしかないんだ。
溢れる唾を飲み込みながら、私はしっかりと頷き返した。それを見るとサークは、少し表情を和らげた。
「この話は、今はまだ俺とお前だけの秘密にしておきたい。普通の奴にいきなり異世界だ何だって言ったって、信じる訳もないからな」
「うん、解った」
「あいつを……エルナータを犠牲にして得た勝利を、絶対に無駄にさせたりはしない。それが現在まで唯一生き残った、俺の使命だ」
そう言ったサークは、今まで見た事がないくらい悲しげな目をしていた。
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