第19話 衝撃
リビングアーマーが振り下ろした斧を、サークの曲刀が受け止める。サークはそのまま斧を受け流してリビングアーマーの懐に滑り込み、曲刀の背で甲冑の兜を跳ね上げた。
兜がクルクルと回転しながら飛び、地面へ転がる。兜の下には、何もない空間があるだけだった。
魔道具を動かす技術を応用して作られたゴーレムの一種であるリビングアーマーには、中身がない。倒すには魔力の供給元である、鎧のどこかに描かれた魔法陣を破壊するしかないのだ。
「見えた!」
鎧の内側、襟元近くに描かれた魔法陣をサークが見つけ、深く切り裂く。魔法陣を破壊されたリビングアーマーはただの鎧に戻り、その場に崩れ落ちた。
「やるねえ。アタシも負けてられないね、『集え氷よ』!」
その一部始終を二体のリビングアーマーの攻撃をかわしながら見ていたドリスさんが、詠唱を開始する。すると持っていた二本のダガーが、厚い氷に覆われた。
(ドリスさんは魔法戦士……!)
ドリスさんが氷のダガーを踊るように振るい、リビングアーマーの関節に傷を付けていく。その傷は見る間に凍り付き周囲に霜を降りさせ、リビングアーマーの行動を封じた。
「そらよ!」
動きを止めたリビングアーマー達の兜を、ドリスさんの回し蹴りが撥ね飛ばす。そして露になった魔法陣に同時にダガーを突き立て、リビングアーマーをただの鎧に変えた。
(――私だって!)
残りのリビングアーマー達に向けて、私は左手をかざす。そして纏めて焼き払うべく、解放の言葉を詠唱した。
「『我が内に眠る力よ、爆炎に変わりて敵を撃て』!」
左手から生み出された火球は真っ直ぐに飛び、リビングアーマーの群れを直撃する。着弾点で爆発が起こり、辺り一帯のリビングアーマーが吹き飛んだ。
「やった……!」
私は喜んだけど、直後に見たものに表情が凍り付く。リビングアーマー達は兜を吹き飛ばされ、炎に包まれながらも、その動きを止めなかったのだ。
「魔法陣だけ狙うのに広範囲向けの魔法は不向きだよ! ここはアタシらに任せな!」
ドリスさんがそう叫び、兜を失いながらも斧を振り回すリビングアーマー達に迫る。サークもすぐにそれに加わり、魔法陣を剥き出しにしたリビングアーマー達を次々と殲滅していった。
そうして気が付けば、その場に立っているのは私達三人だけになっていたのだった。
「ふう、何とか片付いたね」
「ああ。クーナ、怪我はないか?」
――チクリ。
サークの心配の言葉が、針のように胸に刺さる。怪我なんてある訳ない。だって私は、何もしてないも同然なんだから――。
「……私、先の様子を見てくる」
「あっ、おい、クーナ?」
サークが呼び止めるのも聞かず、私は通路の先へと駆け出した。
「……何やってるんだろう、私」
二人が見えなくなったところで、私は足を止める。グルグル、グルグル、嫌な気持ちが頭の中に渦巻いて離れない。
肩を並べてリビングアーマーに立ち向かう二人は、まるで歴戦の相棒同士のようだった。私の入る隙間なんて、どこにもなかった。
サークは私を、仲間と呼んでくれる。けど私は本当に、サークの仲間として相応しい人間なの?
私よりも、もしかしたらドリスさんの方が――。
そこまで考えて、私は首を横に振った。それ以上の事を、考えたくなかった。
「……戻ろう。一人でいると、余計に嫌な事ばっかり考えちゃう……」
きびすを返して、来た道を戻る。道は幾つも別れ道があったけど、自分がどの道から来たかぐらいは覚えていられた。
そして、最初の広間まであと少しの所まで来た時だった。
「――本当は、アンタもウンザリしてるんだろう?」
「!!」
そのドリスさんの声に、反射的に物陰に身を隠す。そっと広間の様子を覗き見ると、サークとドリスさんが壁際に身を寄せて話をしていた。
「……何の話だ」
「アンタほどの男が、子守りに専念するだなんて勿体無いっつってんだよ。アタシなら、アンタと対等にやっていける」
「……大きく出たな」
何? 何の話をしているの?
嫌だ。この先を見たくない、聞きたくない。そう思うのに、体はちっとも動いてくれない。
「アタシにしな。アタシならアンタを満足させられる。総てにおいてね」
そう言って、ドリスさんはサークに顔を近付け――。
――唇に、深く深く口付けた。
「――!」
それを目にした瞬間。私は再び、通路の奥に向けて走り出していた。
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