第17話 作戦会議

 ドリスさんに案内されたのは、路地裏の薄暗いバーだった。三人で店内に入ると、お客さんの視線が一斉に私達の方を向く。

 ここでも一番注目を集めてるのはドリスさんで、その次がそんなドリスさんと腕を組んで現れたサーク。私の事なんて、殆ど見ている人はいない。

 ――ここにいるのに、いないのと同じ。その事が、また私をモヤモヤさせた。


「おうドリス、今度のイロはエルフかい。随分上玉捕まえたじゃねえか」

「違うよ、こいつは今回の仕事仲間さ。今日はまだ仕事があるからね、ウィスキーをロックでおくれ」

「あいよ。兄さんは?」

「彼女と同じものを」


 きっとドリスさんはここの常連なんだろう、親しげな様子で店主さんと言葉を交わすとカウンター席に着いて注文をする。私とサークがそれに並ぶように座ると、ドリスさんが私を振り返った。


「嬢ちゃんは? イケる口かい?」

「あっ、私は……」

「いや、彼女は酒に弱いんだ。ミルクを頼む」

「おや、残念だねえ。マスター、この嬢ちゃんにミルクをやっとくれ!」


 私が答えるより前にサークが先に答えてしまい、私の元にミルクが運ばれてくる。それが私がまだ若造である事を強調させられてるようで、余計悔しさが増す。

 間も無く、サークとドリスさんの元にもお酒が運ばれてくる。ドリスさんはお酒の入ったグラスを持ち、弄ぶように揺らしながら言った。


「それじゃ、仕事が無事成功する事を祈って……乾杯」


 互いにグラスを合わせて、グラスの中身に口を付ける。そしてグラスが半分空になったところで、ドリスさんが再び口を開いた。


「さて、どこから話をしようかねえ……アンタ達、事件についてはどこまで聞いた?」

「事件を最初に担当した衛兵達が捕らえられた後次々と殺され、国は迂闊にこの件に手を出せない事。盗難にあった品は皆魔道具だという事。そして事件は王都を中心に起きている事。このぐらいだな」

「本当に触りだけしか知らないんだね。それじゃまずは、この三日間でアタシが得た情報を共有するとしようか」


 そう言うと、ドリスさんがグラスの残りを一気に飲み干す。空になったグラスを少し強めにカウンターに置くと、ドリスさんの目は厳しいものに変わった。


「まず解ってると思うが、犯人は複数いる。それもかなり大規模な組織として行動している」

「そんな組織が、何で人々に認知されずにいる?」

「人々の中に潜り込んだ工作員が、巧みに情報操作をしてやがるのさ。アタシは突き止めた末端の一人からその情報を聞き出したが、ソイツは全部を聞き出す前に始末されちまったよ」


 その時の事を思い出したのか、ドリスさんが苦々しげに顔を歪める。……やっぱり相手は、ただの窃盗団じゃないみたいだ。


「窃盗事件が起こり始めた、正確な時期は解るか?」

「そうだねえ……連続窃盗事件として捜査が始まったのは、大体一ヶ月くらい前だって話だよ」


 自分の出した質問にドリスさんが答えると、サークは何かを考え込むように眉を寄せた。そんなサークにドリスさんは顔を近付け、私にも近付くよう手招きしてから言った。


「……さて、ここからが本題だ。恐らくだが、フレデリカのギルド内にも内通者がいる」

「!!」


 その台詞に、私は驚きのあまり言葉を失ってしまう。ギルドに……内通者?


「根拠は?」

「末端の始末が早すぎた。まるでアタシがそいつを尋問する事が事前に解ってたみたいにね」

「事件の捜査状況は、ギルドの人間にしか漏らしてないんだな?」

「ああ」


 サークとドリスさんが向かい合い、話を続ける。それは何だか、口を挟めない雰囲気で……。

 まるで、ドリスさんの方がサークの相棒のような……。二人を見ていると、そんな気がして仕方無かった。


 ――サークの相棒は、私なのに。


 今はそんな嫉妬をしている場合じゃないのに、なのに――。私は、どこまで嫌な奴なんだろう。


「今までは、その内通者を突き止める手段がなかった。どうすりゃいいかと手を焼いていた……だがそこにサーク、アンタが現れてくれた」

「……考えを、聞かせて貰おうか」

「アンタレベルの冒険者が捜査に加わるとなりゃ、奴らだって無視が出来る筈はない。内通者は必ず、報告に動く筈だ」

「成る程。その跡をつけてアジトに乗り込むって訳だな」

「話が早いね。頭の切れる男は大好きだよ」


 サークの返答に、ドリスさんは満足げに笑った。そして不意に、私の方に視線を向ける。


「な、何ですか?」

「ここまで聞いちまったんだ、覚悟を決めな、嬢ちゃん。今更怖じ気付いたって悪いが逃がしちゃやれないよ。一度依頼を受けたら成功させて生き延びるか死んで失敗するか、そのどっちかしかないのが冒険者ってモンだからね」

「……解ってます! 私だって一人前の冒険者なんだから、一度受けた依頼から逃げたりしません!」


 真っ直ぐにその視線を受け止めながら、私はドリスさんに言い返す。するとドリスさんは、獰猛な獣のような笑みを浮かべた。


「いい返事だ。……その言葉、忘れんじゃないよ」


 それから私達は、これからどうするかを互いに話し合った。

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