閑話 その2
ベルファクトによる治療の後、俺達は逃げた商隊の面々と合流した。そしてその場で、改めて夜を明かす事になった。
置いてきたテントはグールやコープスが暴れたせいで殆どが壊れ、使い物にならなくなっていた。俺達は寝袋だけを使い、星空を仰ぎながら眠る事を余儀なくされた。
明日も朝は早い。見張りの時間以外はしっかりと眠っておくべき……なんだが。
(……眠れねえ……っ!)
そんな俺は今、寝袋の中で一向に訪れる気配のない眠気と格闘していた。
やっちまった。遂にやってしまった。
必要以上に、あいつに好意的な態度を見せないよう気を付けてたのに。無事な姿で笑ってるあいつを見たら、自分を抑えられなくなっちまった。
……柔らかかったな。いつの間にか、あんなに大人の体になってたんだな。……じゃなくて!
不味い、これは非常に不味い。あいつに俺を諦めさせる事が、俺の役割の筈だろ?
ここであいつに好意を見せたら、逆に期待させちまうじゃねえか。不味い。不味すぎる。
この仕事が始まってからの俺は、ぶっちゃけ冷静とは程遠かった。理由は勿論、あのベルファクトの野郎だ。
あの野郎何かっつったらクーナに絡んできやがって……。幸いキザな男が苦手なクーナの対応は冷たかったが、それでも俺は安心出来なかった。
若い男ってのは野獣だ。ケダモノだ。隙さえあれば女を食おうとする生き物だ。
そんな奴とクーナが、もし二人きりになったら……。だから俺は出来るだけ、クーナの側から離れないようにしていた。……だが。
僅かに俺の目が離れた隙を狙って、あの野郎は嫌がるクーナに無理矢理迫りやがった。ハッキリ言ってブチキレた。気が付いたら、あの野郎の体を全力で近くの川に蹴り飛ばしていた。
俺としてはそのままブッ殺してやっても良かったが……そこにあの
そして俺はミスを犯した。
グール共を殲滅したまでは良かった。だが後から現れたコープスを前に、俺はクーナを一人にするといういつもならやらかさない重大なミスをしちまった。
結果クーナはコープスに捕らえられ、あと少しで死ぬところだった。この事は、本当に悔やんでも悔やみきれねえ。
おまけにクーナを助け出すのに夢中になって、俺自身まで深いのを貰っちまう始末だ。ベルファクトの野郎に治療させるのは癪だったが、正直ヒーリングを受けてなかったら血の流しすぎでヤバかった。
……だから、本当はクーナを叱る資格なんざねえんだ、俺は。今回の件、一番冷静さを欠いていたのは俺だったんだから。
その上自分で危険な目に遭わせたクーナが無事だったからってあれはないだろ。引くわ。数時間前の自分に引くわ。
……こうやって自分の駄目さ加減を認識する度つくづく思う。俺は誰かに愛されるような存在じゃないと。
自慢じゃないが、これでも長い人生、告白を受けた事は何度もあった。けどその度に思うんだ。俺は誰かの人生を一緒に背負えるような、立派な奴なんかじゃないって。
解ってる。逃げてるんだ。他人の人生を預かる事の重みから。
クーナに対してだってそうだ。俺はあいつの想いが、憧れだと思いたいんだ。
自分に対する自信なんて――本当はこれっぽっちもありゃしないんだ。
(百年以上生きてきたってのに……ちっとも成長しちゃいないな、俺は……)
頭上で瞬く星を眺めながら、俺は一つ、大きく溜息を吐いた。
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