#21 再会

先の魔物殺害事件が起こった二日後。

 僕たちはその事件に関するクエストをギルドで受けることになる。


 理由は、報酬額が30万マートと高額であること。

 そして、そのクエストの参加者の一人に顔見知りがいたことである。

 ギルドの横にある食堂で、そのクエストの参加者同士話し合いをする事になったのであった。


「やぁ、あなたたち。今回はまずこのクエストを引き受けてくれた事に感謝するねぇ。わたしはノーデム、ギルド嬢だけど、今回特別に説明する事になったんだよ。よろしくねぇ」


 今受付をしているグラニアさんに代わり、今日が非番だという悪魔のノーデムさんがこのクエストについて説明することになるらしい。

 彼、彼女……。まぁ彼女ということにしよう。

 彼女を中心に、円形のテーブルに全員含め五人座っている。その内の一つが空席で、どうやら遅刻のようだ。


「とりあえず、あなたたち。自己紹介をお願いするねぇ」

「……じゃあまずはオレからだ!オレはリザードのブルート・トリス!B級冒険者で今回の事件の被害者、ヴァン・トリスは俺の親父だ」


 ダンッ!と机を勢いよく叩き付けたのはトカゲのような見た目をした剣士である。

 リザードのブルートさんだ、この事件の被害者の息子であり、彼は父親の敵討ちの為にクエストを引き受けたのだという。

 親の為に危険を顧みず勇敢に挑もうとするその姿勢は、僕にとっては眩しいものである。


 そして二人目。

「私は、マッツ・チョーダ──A級冒険者よ。この事件を聞いたときは涙したわ……。もうっ、ほんと許せないんだから!私の!この!完璧な筋肉にかかれば!……事件は解決できるに違いないわ」


 歯茎が見えるほどニカッと笑い、ポーズをとり筋肉を強調してくる。

 マッツさんは化け物……じゃなくて人間だ。多分。

 男であり、あり得ないほどの筋肉質な体をしている。なぜか上半身裸であり、到底見ていていい気分になるものではない。むしろ吐く。

 オカマなのか、その喋り方もまた奇妙なものだ。しかし確かに腕だけは一流だという……あまり期待できないと言うか、したくは無いのだけれど。


 そして僕たちも軽く自己紹介する。

「ナカムラ アキ。D級冒険者です。こっちは僕の妹です」

「妹のヒイラギだよ!頑張るからよろしくね!」


 まぁ、僕たちだけ目的がお金の為というか。うん。

 別に恥ずかしいとかじゃないけど……D級で受けられる最高額のクエストがこれだったのだ。

 D級がやるクエストでは無いレベルだと言われたが、ギルドの方も一刻も早く解決したいため、特別に受注を許可された。


 それでも、実際に事件に首を突っ込みたい人は少ないらしく、今回はこの様な少人数だ。

 因みにリリアータは危険なので宿屋で待機してもらっている。事件に関わって何かあってからでは全て遅いのだ。



「あぁ!すまない!遅れてしまった!」


 突然背後から声がする。


 食堂の入り口からそう言い現れたのは……。

 黒い髪、肩に掛かるほどの長さで綺麗なストレートの女性。いかにも高そうな服を着ている。

 そして、背中には輝きを放つ剣。


「君達が今回のクエストの……よろしくたの……あっ!?あああぁっ!?」


 こちらに近寄り、挨拶をしようとした彼女は驚いた、それは当然の反応と言える。


「久し振りです、ラクトさん」

「やっほー!」


 彼女は聖剣の勇者。ラクト・(略)・アーサーである。

 マグルさんに暗黒大陸に連れ去られる前、一緒に少しの期間パーティを組んでいた相手だ。

 

 ラクトさんは驚いた表情をしながら、落ち着き払うように胸をなでおろし空席に座る。これで全員だ。

 

「突然で悪いけど、ラクトちゃん。自己紹介をお願いするねぇ」

「あ、あぁ。了解した」


 ラクトさんがバッと席から立ち上がると、背中にある鞘から剣を引き抜いてキメポーズをとる。


「私は勇者、ラクト・リアン・セス・クローク・アーサー!私の聖剣『エクスカリバー』に掛かれば、このクエストもすぐに解決出来るだろう!」


 と自己紹介をする。

 到底僕にはできそうも無いな……あれは。

 

「はいはい、剣は出来るだけしまってねぇ。ほら、座って」

「は、はぁ。わかった」



 その後は、色々な説明を受けた。

 僕たちは、あくまでも犯人を確保、討伐する役目であり情報収拾は、ギルドと情報屋のケットシー「二ファ・アルファ」が結託して行うらしい。

 なので僕たちは新たな情報が入るまで、宿屋に待機となった。



**********



 宿屋の一室、僕たちはラクトさんを招き入れると話を始めた。


「久しぶり、秋くん。柊くん。……随分探したんだぞ!?一体、二週間前君たちに何があった、そしてこの魔物の少女は……」

「いろいろ説明することが多そうですね」

「私たち、強くなったんだー!」


 

 そして僕たちはこの二週間の間に起こった出来事を詳しくラクトさんに話した。

 マグルさんに連れ去られたこと。

 暗黒大陸で修行をしたこと。

 そしてリリアと出会い、一緒に旅をすることになったということ。

 最近アーグスの街に戻り、ラクトさんの事を知りクエストを受けたこと。


 彼女は終始不思議な顔で聞いていたが、驚きながらも一応理解してくれたようだった。


「そうか、あの黒尽くめの男が……。にしてもゴブリンなど架空上の魔物だと思っていたよ、まさか実在するとは」


 そして彼女は少し悩んだ上で、話を持ちかける。


「……君達、私のパーティに戻らないか?その。あれからまた私は一人でな、入ってくれればかなり助かるのだが」


 答えは決まっている。

 

「もちろんです!よかった、こっちもそのつもりだったんですよ」

「よろしくねーラクトさん!」

「ん?仲間か……えっと、よろしく、ラクト!」

「うん、君達ならそう言ってくれると信じていた。またよろしく頼むよ」



 そうして、僕たちはラクトさんのパーティに戻ることになった。

 今の強さなら、少なくとも足を引っ張る事は多分無いだろう。

 

 話していたらなんだか眠くなってしまった……今日はもうクエストをする必要もないし、買い物はもう既に住んでるから僕はもう寝ようかな。なんて言ってもまだ夕方前なのだけど。


「僕はちょっと休憩します、ラクトさんはどうするんですか?」

「私は食事を摂りたいと思うのだが、平気か?」

「うん、大丈夫です、行ってきてください」

「なんだ?メシ、行くのか?」

「そうだが、付いてくるかい?」

「行くぞ!」

「あー、じゃあ柊も行ってきてください。リリアの見張りとして」

「おっけーだよ!」


 ラクトさんと、柊、そしてリリアが部屋から出る。

 それを確認すると確認すると、僕はストレージ収納術 を使用し、一通の手紙を取り出す。

 マグルさんが、僕に渡してきた手紙だ。


「一体これはどういう意味なんだろう……」


 そこに書かれていた内容は、こうだ。


『秋、柊。お前達は無事修行を終え、俺の元を離れることになる。

 リリアの事、大切にしてやれ。そして死ぬんじゃない、これは命令だ。

 不甲斐ない俺を許してくれ。お前たちをさら ったのは理由がある、しかしそれはお前たち 自身が知るべきことだ。

 大和大陸の咲舞さくま 家に訪れろ。

 真実を知り覚悟を背負うのならば。そして、誰かを守りたいと思うのならば。

 伝えることは以上だ、旅の安全を祈る』


 と言われても。

 真実ってなんだろう、咲舞さくま 家って言うのも初めて聞く言葉だ。

 でも、目標を持たない僕たちにとってはいいかもしれない。大和大陸、か……


 僕が収納術ストレージ でその手紙をしまうと、睡魔が襲ってくる。

 意識が薄れていき、やがて僕は机に突っ伏して微睡むのであった。

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