#15 ゴブリンの頼み
「おにぃ!そっちに行くよ」
「了解!」
柊が煽った魔物を、僕が
固まって動けない隙に、柊が
相手が凍って痺れている間に、僕と柊で総攻撃して畳み掛ける。
地球のどの生物とも似て非なる魔物。
他の生物に例えようの無いその獣は、掠れた空気のような声を吐き出すと、同時にぐったりと果てた。
これでようやく一匹。
「やるじゃないか、この辺りの魔物はお前達にとっては強力かもしれないが今の様な連携ができれば二人でも倒せるようになる」
「はは、やっと手助け無しで倒せました」
「うー、一匹でも大変だよ……」
マグルさんの元で修行をし始めて四日目。
確実に進歩しているようだ、レベルもそろそろ何体か倒さないと上がらなくなってきた。
「この調子なら、一ヶ月とも言わずに一、二週間でも30レベルに到達するかもしれないな。飲み込みが早い」
「えっ、本当ですか」
「嘘は言わぬ」
倒した魔物をスキル
このスキルを持っているだけで荷物持ちとして一生働ける程度には便利なスキルらしい、一体どういう原理なのか。
魔物を仕舞い終えると、遠くの方で金属の音がした。
「あれ……」
そちらの方を見ると、少し背の小さい人間達が魔物を集団で狩っているようにみえる。
弓、棍棒、または槍などそれぞれ武器を持ったおり、川の服で武装している。
人?こんな場所に──マグルさんはこの辺りには自分達しかいないって言っていたはずだけど。
そして柊も気づいて、不思議そうにそちらを見る。
「ねぇ!師匠!人みたいなのがいるよ!?」
「うん?何だと……いや、確かに居るな。そうか、あれはゴブリンだな!」
「ゴブリン!?」
そういえばこの世界では初めて見る存在だ。
エラリスにいたのはウルフとか、スライム、ケットシー、リザード等だった。
聞いた事がある、ゴブリンは共生後の社会でも、人間や魔物の文化から離れ、独自の文化を持ち生活している種族だと。まさかこんな大陸にいたなんて。
「……まずいな、気付かれた。お前達にはまだ早い相手だ!こっちに来い!」
「えっ?わかりました!」
魔物を狩り終えたゴブリンの集団は、こちらを見るや否や、こちらへと向かって来る。武器を掲げ、弓の弦を引きながら、明らかな殺意を持ってこちらへと近付いてくる。
刹那──マグルが足を踏み出すと、その一瞬でゴブリンの集団へ到達する。
ゴブリン達はその異様な殺気を感じ取ったのか、動きを止め警戒態勢に入る。
「無闇矢鱈に攻撃してこないところを見ると、多少の考えはあるようだ」
「ラニ・カラン!ニラノ!」
「「ノン・ラナト!!」」
「独特な言葉だな、何を言っているのかまるで理解できんぞ」
「コイ……!」
一番先頭にいるゴブリンが手をクイッとジェスチャーする。
「かかって来いと言う事か?」
「キチ・カナニ!」
大きく腕でバツを作る。
「付いて来いの方か?」
「ラト・チナシ!」
ゴブリン達はコクコクと頷いた。
それを見てマグルは秋と柊に来いと合図をする。
「どうやら、招かれてるみたいですね」
「おおー、じゃあ早く行こうよ!」
ゴブリン達に従って、ついていく事にした。
**********
「ここが、ゴブリン達の住処……ですか」
「集落だな。きっと部族で暮らしているのだろう」
「すごい数のゴブリンだねー」
ゴブリン達の姿は、百センチ程の人間のような姿であり、鼻が異様に出っ張っていて、頭髪を持たない者が多い。綺麗な頭蓋の形をしており、肌をよく見ると少し緑がかっている。
背中にとても小さな羽が生えてはいるが機能している様には見えない。
まるで、アフリカ辺りの民族みたいだ。
魔物の毛皮で覆われた家、歪な形の固まった粘土で作られた入れ物。理解出来ない言葉があちらこちらから飛び交っている。
異邦人の僕たちに対して、敵対するわけでもなく、ゴブリン達はまるで家族のようなアットホームな雰囲気で迎えてくれている。
罠というわけでもなく、本当に客として招待された様だった。
「チリノ・シセラ!」
「うん?大きな家……なるほど。ここが貴様らの族長の家という訳か」
「チ・クイシ!」
案内役のゴブリンが去ると、扉代わりの
「お呼びのようだ。入るぞ」
マグルさんに続いて、中へと入る。
奥の方には、他のゴブリンよりも二回りほど体格の小さいゴブリンが一体。隣に女性のゴブリンがいた。
そして、女性の方が喋り始める。
「ここ、ゴブリンの集落。お前たち、客。あたし、翻訳で隣が、族長だ」
『クラト!ラナト!』(ようこそ、強者)
族長の言葉に合わせ、女性はこちらに理解できるように翻訳をする。一応これで意思の疎通は測れるみたいだ。
不思議なことに、こちらの言葉はゴブリンたちに理解されるみたいだ。
「単刀直入に聞く、ここへ招いた理由を聞かせろ」
「ラモイ・ラナト・チカナミモ!」(お前、強者、頼みたい)
「ほう、頼みとは何だ」
「ミチ・ダンジョン・チノンデ!」(近くの、ダンジョン。攻略してほしい)
「どういうことだ?」
「トルタ・チヌ──(つまり、こう──
「もういい、翻訳面倒。あたし、説明する」
「アータ」(わかった)
「任された」
もう翻訳の意味無いじゃないか……。
「この近くに、ダンジョン、ある。でも、クリア、無理」
「宝目当てか?」
「そう。クリアしたら、渡す。宝、山分け。場所教える、交換条件」
つまりこの付近に、ゴブリン達が攻略できないダンジョンがあるらしい。
宝が欲しいから、強者と見込み、場所を教えるから攻略してほしい。
攻略したら情報量として、宝は山分けにする。という事らしい。
「ほほう、中々トレジャー魂をくすぐる話じゃないか」
そしてマグルさんはこちらをチラッと見る。
「な、なんですか」
「そして、修行の課題としても悪くはない」
「え?……師匠?」
「何が、とは言いませんが遠慮したいですね」
マグルさんが悪い笑みを浮かべる。
ああ、こりゃもうだめだ。もうこの後の展開は容易に想像できる。
「よし!いい体験になる!承ろうじゃないか、俺の弟子、この二人に任せろ!」
「うわー、予想通りですね」
「だねー」
「ラモイナ・ラナト?」(こいつらも強者なのか?)
「俺様には敵わないがな、それでも弱くはない……はずだ!多分な、多分」
「そこはもっと自信持って言ってくれませんか!?」
「なんだ反抗期か?ははは!いいぞ、面白くなってきたぞ!」
「じゃ、決まり。場所教える。コイ」
絶対楽しんでるよ、あの人……。
僕と柊は、溜め息をつきながらもついていくことにした。
**********
「モル・ダンジョン。トル・ディアータ」
「……なんだ?」
「あ、言葉、間違った。……ここ、ダンジョン。あとは、頑張って。ジャ」
「案内ご苦労、吉報を待ってるんだな」
「アー」
ゴブリンの少女は、手を振り駆け足で去っていく。
それを見送ると、後ろの方を見る。ダンジョンだ。
「それにしても、これがダンジョンですか?」
「うーん、見えないなー」
「壮大な遺跡などを想像していたなら、それは幻想だ。少なくともかつての魔王軍の造ったダンジョンでなければこんなものだ。きっといつかの人類、または別の種族のものだろう」
それでも──井戸って。
どこからどう見ても井戸で、中を覗くと底が見えてるのか見えてないのか判断できない程には深く、暗い。そして頼りないロープがぶら下がっている。
こんな所に、本当に宝があるのか?
「ダンジョン!ワクワクするなぁ!」
……柊にとっては、見た目など些細な問題ではなさそうだ。
こんな井戸でワクワクするって、まぁ感性が違うだけか。
「俺は付いて行かない。しかしスキルで行動は監視するから安心しろ。何かあれば俺が助けに行く」
「ええ、そうだと思いましたよ」
「意地悪だよねー?」
「なっ!そんな風に思われてたのか……結構ショックだぞ。まぁいい、行ってくるんだ」
「はいはい、わかりました」
「頑張ってくるねー!」
そうして、僕たちは成り行きでダンジョンを攻略することになった。
安全に攻略できればいいのだけれど。
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