#14 密猟者達

「まずはお前達……。秋と柊、それぞれに合ったメニューを考えなければな」

「メニューですか」

「個人に合った戦い方を極めるのは大事だ」

「なるほどー」


 小屋を出て、枯れた草原を見回す。とても凶暴そうな魔物がうじゃうじゃいるのだが。

 戦い方って……。まさかあんなのと戦えって訳では無いはず。はず、だ。

 だって、あれ魔物だし。アーリエじゃないし。


「それでだ!お前達にはあの魔物を狩ってレベル上げをしてもらう!」

「おおっ!」

「うわぁ!ですよねー。知ってました」

「でも、魔物ってあれだよね?今は共存してるから狩っちゃダメじゃなかった?」

「そう!それですよ、この世界での魔物のほとんどの種族は人間と対等、家畜以外の魔物は殺したら捕まるはずですよ」


 そう、魔物は傷付けてはいけない。同じく魔物も人間を傷つけてはいけない。これがこの世界のルールで、あくまで敵はアーリエ達だけなのだ。

 凶暴すぎて被害を及ぼす魔物は、特別にギルドのクエストで討伐依頼が出されるが、それは基本例外だ。もしくは人の住まない地域に追いやっているらしい。


「ははは!この暗黒大陸には、獰猛すぎて魔物たちの手に負えない危険な魔物が住み着いてるのだ!ここには知性を持った魔物はいないし、ましてや人間もいない!必然的に敵のレベルも高い、最高の狩場さ」

「いや、それってバレたらまずいですよね!?」

「バレなければ、問題など!ない!ははははっ!」

「これが密猟者ってやつなんだね、初めて見たよ私」

「僕もです」


 大丈夫かな、やっぱりこの人危険なんじゃ。


「まあ、やりますよ。乗り掛かった船ですしね」

「おにぃカナヅチだから船から降りると溺れちゃうもんねー?」

「そういう意味で言ってるんじゃないんですけど……まあいいや。それで僕たちは何をすれば?」

「秋は、クナイによる魔物の狙撃練習。柊は魔物の攻撃を受け流す所からだな。……おい、一応聞くが刀で騎士ナイトをやるつもりなのだな?」

「もちろん!なんかカッコいいでしょ?」

「「はぁ……」」

「あっはは!ハモったー」


 とりあえず何事も始めるまでは出来るか出来なんて決めつけれるわけもないし。やってみよう。

 クナイで狙撃なんて、とか思っていたけど、アビリティの狙撃スナイプを解放してからなんとなく頭と視界が冴える気がする。


 今更だが僕の持つ魔法武具のクナイは、本体を所持していれば、MPを注いで手に具現化することができる。MPを使えば使うほど、たくさん投げれるという便利な武器になっている。

 MPを注ぎ、手にクナイを実体化させる。


「よし、炎属性ファイアの魔法を込めて……それっ!」


 一番近く、五十メートル程離れた場所にいる鳥を狙い投げる。

 クナイはその鳥に命中し、込めた魔法が発動し炎を纏う。


「うわ!当たった……って!燃えながらこっちに来てる!?」

「流石に今の攻撃力では仕留めれないようだな」

「火の鳥、かなー?あれ、落下したよ」

「やはりこの程度の投擲も認識できないようではまだまだだな」

「ええ。今の一瞬で当てたんですか」


 鳥を見ると、クナイの他に一本の投げナイフが刺さっている。

 どう見ても致命傷はそれだ、この人の強さって、本当何なんだろう。さすが師匠!とか言ったほうがいいのかな、言わないけど。


「次は私?」

「そうだな、あそこに居るクラッシュマンモスの攻撃を三十秒間避け続ける、とかでいいんじゃないか」

「ええっ!?あのおっきいの?いやぁ、私でも戦っちゃいけない相手くらい分かるよ!」

「まずはやってみろ!」

「うぅ、わかったー」


 柊は草を踏み分けクラッシュマンモスに近づいていく。この辺りの魔物でもかなり攻撃力の高い相手だ。

 縦三メートル、横五メートルほどの巨体で、その大地に根を張るようにズシリとした足で何トンもある体を支えている。速度が速い魔物ではないが、今の柊にとっては一撃だけでも食らうとかなり厳しい相手だろう。


「うーわ、大きすぎるって!こんなのと戦うって──無理無理無理!」

「覚悟を決めろ!それっ!」

「あっ!?」


 マグルの投げたナイフが勢いよく、相手に突き刺さる。それだけで相手は、瀕死に近いダメージを受けた。

 マンモスはあまりの痛みに怒り狂い、まるで闘牛のように暴れ出す。

 そして攻撃を仕掛けたのは目の前の女だと、柊の方を見るや猛スピードで突進をかましてきた。


「うわあぁっ!危なっ」


 なんとか危機一髪で避けるものの、刀の重心で体勢を崩し転ぶ。

 立ち上がろうとするが、予想以上に緊張しているのかなかなか起き上がれない。

 その間、マンモスは速度違反の車のような急ブレーキをかけ、振り向くと再度柊に突進を仕掛ける。

 普段の突進はもっと遅いのだが、火事場の馬鹿力か、彼の速さは通常の数倍……100キロを超える。一撃でも食らったら柊の防御力と体力を加味しても余裕で死ぬだろう。


「おっとと……そんな簡単にはやられないから!雷属性サンダー!」


 柊は立ち上がり、刀に電気を通す。

 そしてそれを力の限り、突進してくるマンモスに向けて投げつけた。

 刀は魔物の前脚に刺さり、即効の雷が、神経を麻痺させ動きを鈍らせた。

 結果マンモスは柊の手前、数十センチの場所で勢いを止め力尽きる。


「うっ……終わった?本当、生きてる心地がしなかったよ」

「よーし!いいぞ!そいつは今日の晩御飯だ!」

「お疲れ様!戻ってきてください!」


 ステータスを確認すると、今の一体だけでレベルが3も上昇していることが分かった。

 柊はゆっくりと刀を抜く。血濡れているが何も感じない。

 アーリエを倒す時でも、別に残酷だとか、酷いことをしているとか、一度も思ったことはなかった。今だって別に悪い気はしない。

 寧ろ兄とは対照的で、心が充足していく。強くなることの快感を味わうのであった。



**********



「よし、今日の成果。春は五体、さく……柊は六体だな。初日にしてはかなり上出来じゃないか」

「名前、季節関連で間違えないでください」

「すまぬ、秋。……二人は今日だけで何レベルになった?」

「13です」

「14だよ!」

「ふむ、やはりここ辺りの魔物は経験値が多くていいな。アーリエなどと言う訳の分からない奴らより余程稼げる」


 こっちは死にそうな思いで狩ってたんだけど。

 でも、初日からクナイによるコントロールも中々正確になってきて、今では八割の確率で当たる。飛ばすだけなら百メートル以上何とか投擲できるようにはなった。

 それでも未だにここの魔物は強力で、マグルさんの手助け無しではHPも一割しか削れない。


 レベルも12を超えたし、そう言えばスキル解放も出来る様になってるだろうか。

 柊と一緒に解放することにした。


<ナカムラ アキ>=能力解放=

*腐敗化無効(ABILITTY)

状態異常:腐敗の無効化


<ナカムラ ヒイラギ>=能力解放=

*加速(SKILL)

武器を持っている時、足に力を込めると踏み出しの速度が上がる 


 良い方なのか、悪い方なのかが分からない。無効化って事はありがたい能力って事なんだろうけど。

 因みにスキルは、意識して使用する能力。代償に体力やMPを使用する場合がある。

 アビリティは、技能として体に身に付く常時発動の能力だと教わった。


「能力って不思議だねー。自分にない力が入るみたいな……」

「僕たちには慣れない感覚ですよね」

「何を話している。ほら、お前達の狩った晩飯だ!残さず喰らえ!」

「あ、普通に美味しそうですね」

「凄い!骨つき肉なんて初めて見たよ!」

「明日からさらにハードになっていくからな!覚悟しろ!はははははっ!」


 結局マグルさんの正体も分からないままだけど。

 どうやら悪い人ではないっぽい──とまでは断言できないかな。

 でも他の人と一緒にご飯を食べるのは久しぶりかも、いつも母さん、柊と食べてたからとても懐かしい感じがする。


 こっちに来てから二週間、ちょっと寂しいけれど、案外この世界も悪くはないと思った。

 さて、明日も頑張るとしますか。

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