マイナー・アド・ナインス

押田グレン

第一章 モノクロの虚飾

第一話 命重

 外に出たいわけじゃない、ただ、ここにじっとしていたくない。自分が分からない。死んでしまいたい。


 そう思って飛び出した。

 外の空気がおいしい、なんて思えなかった。乾燥した冷たい空気が、まるでレクイエムのようにわたしの頬を撫でた。


 死にたい。

 人の命なんてそれほど重いものではない。


 真っ暗闇の中を歩く。

 このまま歩いて死後の世界に辿り着けたらどれだけ良いか、と思った。わたしがいなくなることで寂しい、辛いと思う人はいるのだろうか。表面的に、お世辞を言う感覚でそう思う人はいるだろうが、心の底から、という人はきっといなかった。それと同じように、もしわたしの周りで誰かが死んでしまっても、わたしは寂しいと思えないし、辛くもない。


 どんな死に方が良いだろう。


 この真っ暗闇の山の中で、首を吊るのが良いだろうか。

 首吊りは自殺の方法の中でも成功率が高いというのを、どこかで聞いたことがある。確実に死ねることを考えれば、この方法が一番良い、と思う。ロープは持っていないけれど、着ている服で充分賄える。でも、こんなところに人が来ることなんて滅多にないだろうし、なかなか発見されないかもしれない。長い間見つからずにドロドロの液状になって、木々の栄養になって、それらの成長の糧になるなんてごめんだ。わたしはまだ中学生だ。出来れば綺麗な姿で見つかりたい。そうであれば、身体が散らばってしまう可能性がある電車への飛び込みや、高いところからの飛び降り自殺も候補から外れることになる。

 ほかには、薬の大量服用や、飲食をまったくしないで餓死、なんてやり方も思いつくが、死んだ後の姿が地味すぎて理想からは遠い。それに、苦しむ時間が長くて即効性がないので、今すぐに死にたいわたしには合わないかもしれない。

 頸動脈を切るのが良いか。きっと、すぐに死ぬことが出来る。真っ赤な血液に濡れて、見た目も艶めかしく素晴らしいに違いない。今のわたしにとって、一番理想的な死に方かもしれない。でも、そのためには刃物を用意しなくてはいけない。こっそりと部屋を出て来たので、お金は持っていなかった。盗もうにも、その過程で誰かに見つかったりしたら元も子もない。どうにか、うまく調達する方法はあるか。


 周りを取り囲む木々のように数え切れないほどの考察が、わたしの頭の中を駆け巡った。このほかにも、死に方なんてごまんとある。


 考えるだけで、自分の死後の姿を想像するだけで、胸が焼けるようにワクワクする。心が腐ってしまったかのような、死んでしまったかのような状態で生きているなんて、何の価値も意味もないと心から思う。わたしは生まれた時からきっと、感情が欠落してしまっている。早くここから抜け出して、今まで見たことがないくらい美しい死後の世界へ向かいたい。


 そんなに重いものじゃないんだ、人の命なんて。

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