ショタっ娘のお祭りデビュー(7)

「ボクも頑張ってお兄ちゃん描いたよー。見て見てぇ」


 にこやかで、どこか自慢げなミオが、こちらに見えやすいよう配慮して、顔が描かれたせんべいを向けてくれる。


 ……うん。画力は向上しているな。


 少なくとも、以前図画工作の時間に描いた俺の肖像画よりも、頭の毛が三本多い。


 どっちにしても頭皮がさみしい事には変わりないのだが、ボトルの先端から直に出てくるチョコソースを使った似顔絵にしては、なかなかいい出来だと思う。


「どう? お兄ちゃん」


「えっと、そうだな。とても上手く描けてると思うよ。特にその、何だね、元気いっぱいそうなところがハッキリと伝わりやすい感じで」


「ほんと? えへへ、良かったぁ。大好きなお兄ちゃんの顔だから、一生懸命描こうと思ってたんだよー」


「ありがとな、ミオ。嬉しいよ」


 はぁー、キュンとするわ。こんな事言われて、嬉しくない彼氏がいるわけないじゃん。


 何しろまだ十歳のショタっ娘ちゃんが、額にうっすら汗をにじませるほど、真剣に、俺の顔を描いてくれたんだから。


 これはもう、芸術というより宝物なんだよ。


「なぁミオ。このおせんべい、食べる前に写真を撮っておこっか」


「うん。じゃあ、二枚並べて撮ろ?」


「並べて? 一枚ずつじゃなくていいのかい?」


「んと、その方が、おせんべいの中でも一緒にいられるかなって思って……」


 そう言って、上目遣いで俺の顔色を窺うミオが、愛おしくてたまらなかった。


 だから俺は、衝動的に、その小さな体を抱き寄せてしまっていたんだ。


「お兄……ちゃん?」


「あっ! ご、ごめん! つい……」


「ううん、いいの。ボク、お兄ちゃんに抱っこしてもらえて幸せだよ」


 俺の腕の中で頬を寄せながら、そんな事を言われたら、より一層、強く抱きしめたくなっちゃうよなぁ。


 さっきから、俺の中の胸キュンメーターがレッドゾーンまで振り切ってしまって、一向に戻る気配がない。


 柚月義弘、よわい二十七にして、ようやく悟ったような気がする。これこそが、恋人とイチャつくって事なんだろうな。


 これがあの元カノだったら、「くっつかないでよ。ただでさえ暑苦しいんだから」と突き放されていたに違いない。


 俺の彼女がミオでほんとに良かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る