夏祭りを控えて(4)

 俺もお祭りは少年時代以来の参加になるから、実を言うと内心ワクワクしている。


 子供の頃はわずかな小銭を握りしめて、何を食べようか、何をして遊ぼうかを真剣に吟味したものだが、大人になった今は安定した収入があるからね。


 気になったものは積極的に食べ、そして遊ぶ事で、小さい時に果たせなかった夢を叶えたいと考えているのだ。


 そういう意味では、ミオよりも俺の方が、明日の納涼祭を待ち遠しくしているのかも知れない。


 もっともこれが平日開催だったら、その足取りは重く、ろくに楽しめそうにない事が容易に想像できる。だからこそ、つくづく、土日休みの会社に勤めていて良かったと思うのである。


「ねぇお兄ちゃん。明日行く神社って――」


「何だい? 一応先に言っておくけど、あそこは縁結びの神社じゃないぞ」


「むー」


 聞きたい事を言い当てられ、おまけにその答えが期待はずれだったからか、ミオは頬をぷうっと膨らませた。


 うん、そういうところがすごくかわいい。


 あえて口には出さなかったけど、恋みくじのお告げに頼らなくても、俺とミオの相性は最高だと信じてるから。



    *



 翌日の土曜日。


 軽く夕飯を済ませた俺たちは、窓の外が暗くなってきたのを見計らい、出発の準備を始める。


 準備と言っても、やる事は体に虫除けスプレーを振り、浴衣を羽織るだけなのだが、着付けの時点でちょっとした疑問が浮上したのは予想外だった。


「お兄ちゃん、浴衣の下にシャツって着てもいいの?」


「え? いいんじゃないか?」


「でも、シャツを着たらこうだよー」


 と言って、ミオがシャツの上から浴衣を羽織ると、衿元えりもとから、丸首の白い布地が顔を見せる。


「なるほど、そういう事か」


「ね。何だかしっくりこないの」


「て事は、上は裸にしなきゃダメなのかな」


「んー、ボクはそれでも構わないけど……」


 ミオは一旦、浴衣を折り畳んで脇へ置くと、着ていたシャツを脱ぎ始める。


 普段から見慣れているミオの脱衣が、この時だけはやたら艶かしく映ったので、俺は反射的に目を逸らしてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る