初めてのペットショップ(8)

「ミオ。それはね、レトリバーって言うんだよ」


「えー? そうなの?」


「うん。レトリバーを日本語に意訳すると『回収する者』とか『取り戻す者』って意味で、ゴールデンは毛の色の事を言ってるんだね」


「毛の色がゴールデンって何?」


 ミオは顔をしかめながら、自分が知らない英単語の意味を尋ねてくる。


「ゴールデンってのは、簡単に言うと黄金色こがねいろだな。黄金色おうごんしょくって言った方が分かりやすいかもだけど」


「黄金って、キラキラしてるあの黄金?」


「そうだよ」


「じゃあ、日本語にしたら『黄金の取り戻す者』になるんだ。変な名前ー」


「う……そうは言うけどだな。あくまで直訳すると、そんな感じの名前になるんだよ。あと、レトリバーね。念のために」


「分かったよー。でも、トリレバーの方が呼びやすくない?」


「まぁ、俺たち日本人には馴染みのある名前だからね。鶏レバーって」


「でしょ? トリレバーの方が言い間違いしなさそうだもん」


「何たって美味しいしな。鶏レバー」


「うん」


 さっきから鶏レバーの話ばかりしてたら、何だか無性に鶏レバーが食いたくなってきたな。


 ここを出て地下のグルメフロアに寄ったら、鶏レバーのおかずでも買って帰るか。


「とにかく。そのワンちゃんが吠えなかったのは、ゴールデン・レトリバーならではの穏やかな性格だからだろうね」


「よかった。ボク、大きい音とか声は苦手だから、吠えないワンちゃんは好きなんだー」


「それは俺も同感だよ。犬はまぁ仕方ないとして、人間が騒がしいのはちょっとな」


「だよね。あの時ナデナデしたのが、おとなしい子で良かったぁ」


「尻尾、フリフリしてた?」


「うん! こんな感じー」


 ミオはそう言うと、ニコニコしながら、自分に尻尾が付いている……という仮定でもって、ショートパンツから溢れんばかりのお尻を左右に振ってみせた。


 なんと艶めかしい、いや違う。ここはそういう感想を抱く場面ではない。


 その愛らしい腰つきのおかげで、俺にもミオの臀部あたりに、ゴールデン・レトリバー特有のフサフサな尻尾が見えたような気がする。


 素でこれなんだから、ミオがコスプレ用の犬、あるいは猫の耳と尻尾を付けてくれたら、もっとかわいくなると思うんだよなぁ。


 ミオはどっちかというと猫系だから、子猫ちゃんセットの方がお似合いかな。


 そして、その子猫ちゃんセットで変身したミオに、猫語で甘えさせるのだ。実に理想的なプランではないか。


 アカン、妄想するだけで顔がニヤけてきた。


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