初めてのペットショップ(3)

 うまそうにジュースを飲む俺の顔を、ニコニコしながら見つめているところから察するに、今のところ、間接的に口づけをしたという風には捉えていないようだ。


 でも、この無邪気さも時間の問題かなぁ。


 うちのショタっ娘ちゃんはうちに迎え入れて以来、テレビを見るようになったし、クラスメートの女の子たちからも〝恋バナ〟を聞かされるらしいから。


 まだ十歳の柔らかい頭だと、間接キスが何であるかなんて、あっという間に覚えちゃうんだろうな。


 さ、ジュースも飲み終わった事だし、今度はペットショップを覗いてみるとしますか。


 ワンちゃん猫ちゃんがあまりにもかわいすぎて、「ボクも飼いたーい」って言い出さないか心配だけど、お利口さんなミオなら、きっと聞き分けてくれるだろう。


「ごちそうさま。それじゃあ行こっか」


「うん!」


 近くのゴミ箱へジュースの空き缶を捨てると、ミオは、それを見計らったように俺の手を引き、ペットショップへと連れて行く。


 そうして訪れた店内では、ほどよく冷房が効いており、蒸すような暑さだった屋外との気温差で、鼻が少しむず痒くなった。


 一方、ずらりと立ち並ぶケージを見回したミオは、横になったままこっちを見ている一匹の子犬が目に止まり、早速その愛らしさに釘付けになったようである。


「お兄ちゃんお兄ちゃん! ちっちゃなワンちゃんがこっち見てるよ。かわいーい」


「ミオ、見るのは良いけど、あんまり騒いじゃダメだぞ。ワンちゃんも猫ちゃんもお休み中なんだからね」


「はーい」


 うん。やっぱりうちのミオは、世界で一番聞き分けのいい子だよ。


「このワンちゃん、ずっとプルプルしてるけど、寒いのかな?」


「んー、体温調節のために震える、という説はあるな。ただ、興奮したり、緊張してたりする時もプルプルするらしいよ」


「そうなんだ。ワンちゃんワンちゃん、ボクたちは怖くないよー」


 ミオはかがみ込んで子犬と視線を合わせ、笑顔で手を振り始めた。


 その言葉が通じているかどうかは分からないけど、たぶん、ミオの心優しさは伝わったのだろう。


 子犬はリラックスした様子でミオを見つめ、ふかふかの小さな尻尾をゆっくりと揺らしている。

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