夏祭りに備えて(5)

「ミオ」


「んー? なぁに? お兄ちゃん」


「今日のラジオ体操、何か変わったこと無かった?」


「変わったことって?」


「えと。何て言うか、参加してる他の人に見られたりとか」


「分かんないよー。だって体操している間は、ボク、ずっとおじさんの方向いてるんだもん」


 ミオの言うおじさんとは、毎年町内会で執り行われるラジオ体操の集会を仕切り、子供たちの前で体操の正しいやり方を示したり、スタンプカードにハンコを押してくれる人の事である。


 子供たちはそのおじさんの模範となる体の動かし方を見ながら体操に励むので、基本的に前しか向かないのだ。


 そうやって体操に集中していると、仮にミオの事をやらしい目で見ている男がいても、到底気付けないよなぁ。


 それだけに、ミオの無防備さが尚更心配になってくるんだけど。


「いつもはおじさんの前でやってるの?」


「そだよ。クラスメートの女の子たちと一緒の列に並んで、一番前でやるの」


「あ。クラスメートの子も来てるんだ」


「うん。春華はるかちゃんと友梨奈ゆりなちゃんでしょ。それから朋絵ともえちゃんも一緒だよ」


「じゃあ、男の子のクラスメートは?」


「男の子も一人だけ来てるよ。夏弥なつみくんって言う子で、いつも学校で遊んでくれるんだー」


「その子たちって、みんなミオみたいに薄着で来るの?」


「そうだよー。だって毎日暑いんだもん」


 そりゃそうか。いかに早朝の催しものだとは言っても、今は夏真っ盛りなんだから、暑いもんは暑い。


「でもねお兄ちゃん。今日、朋絵ちゃんがボクが穿いて来たショートパンツを見て、『ミオちゃんそれ短すぎだよー』って言ってきたの」


「あ。やっぱり?」


「やっぱりってなーにー」


 ミオが頬をぷくーっと膨らませながら聞き返す。


 ミオにとってあのショートパンツはよほどのお気に入りなのか、丈の長さに突っ込まれる事には若干ご不満な様子だ。


「いや、実際短いじゃん。あれ」


「そうかなぁ」


「ミオは気付いてないかもだけどさ。あのショートパンツ、実は後ろからだと、お尻が少し見えちゃうんだよ」


「んー。でもかわいいでしょ?」


「……うん、すごくかわいい」


 ついでに言うと、色っぽすぎてメロメロになりそうだよ。


「かわいいけど、そのうちショーツまで見えちゃうんじゃないかって、心配になるんだよなぁ」


「大丈夫だよー。ボク、ショートパンツに合わせたの穿いてるから」


 ミオはそう言い放つと、白い歯のまばゆい、健康的な笑みを浮かべてみせた。


 ん? つまり、今日のミオはお尻が見えるほど丈の短いショートパンツより、さらに布面積が小さいショーツを着用して外出したと?

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