夜のデートはイカ尽くし(9)

 生簀のイカは、メニューに載っていたイカの活け造りや、イカの握り寿司などの食材になるかも知れないわけだし。


 なんて考えているうちに思い出したが、そういや、ご飯もののメニューには寿司もあったんだよな。


 シャリに大葉と新鮮なイカの切り身を乗せて握られた寿司を、刺し身醤油につけて食す。


 ああ、想像しただけで腹が鳴ってきそうだ。


 でも今日は二人で話し合って、イカスミ炒飯とイカ飯を半分こにして食べると決めたのである。


 だから、イカの握りはまたの機会にしよう。


「ねぇお兄ちゃん」


「ん?」


「お兄ちゃんはイカを釣った事あるの?」


「一応あるけど、たった一度だけだよ。俺が子供のころ、親父に連れて行ってもらって、スルメイカ釣りに挑戦したんだ」


「スルメイカって昔、初めてイカ飯を作る時に、たくさん獲れてたイカの事だよね」


「そうそう。そのイカを釣って食べようって話になって、実家の近くにある海まで行ったんだよ」


「ふーん。たくさん釣れた?」


「まぁ、二人で十杯くらいだな。それも小さいのばっかり」


 と言って自虐的に笑ってみせたが、話を聞いているミオは、興味しんしんといった眼差しで俺を見つめてくる。


「お兄ちゃん、イカの釣り方って普通と違うんでしょ。どうやって釣ったの?」


「えーと、あれは何だったかな……。確か、キビナゴを巻いて釣ったような覚えがあるけど」


「キビナゴを巻くの?」


「うん。特殊な針と言うかフックと言うか、とにかくその仕掛けにキビナゴを巻きつけて、寄って来たイカに抱かせるのさ」


「んー? 抱かせる?」


 イカがキビナゴを抱くという状況に想像がつかないのか、ミオが首を傾げた。


「イカはね、エサになる魚に抱きついて食べるんだよ。で、その時にフックに引っ掛かると、逃げられなくなって釣り上げられちゃうわけだ」


「へぇー、そんな食べ方をするんだ。じゃあ、普通の釣り方じゃ釣れないよね」


「まぁそうだな。イカはオキアミとかには興味なさそうだし、まず、一般的な釣り針じゃ引っ掛けられないからね」


「ね。ボクがキビナゴを使っても釣れるかな?」


 よほどスルメイカを釣ってみたいのか、ミオは俺の返事に期待を寄せて尋ねてくる。


「もちろんさ。子供の時の俺ができたくらいだから、きっとミオも釣れると思うよ」


「ほんと? よかったぁ。いつか、イカ釣りをやってみたいなー」


 実を言うと、ミオにイカ釣りをさせてあげるためのプラン自体はある。


 それは、来たる八月の盆休みで実家に帰省した際、物置に眠っている釣具を持って海に繰り出すというものだ。

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