魚釣りと温泉(11)

「ミオ、ごめんな」


「え? どうしたの? お兄ちゃん」


「今までお風呂は別々に入ってただろ? それが、ミオにさみしい思いをさせてたんじゃないかって考えてたんだ」


「お兄ちゃん、そこまで考えてくれてたの? やっぱり、すごく優しいんだね」


「優しいかなぁ? 今までお風呂の事に気がつけなくて、鈍感だったなーとは思うけど」


「そんな事ないよー。ボク、今はすごく嬉しいんだからねっ」


「そっか……ならいいけど。でさ、これからは、できるだけ一緒にお風呂に入ろうよ」


「いいの?」


「うん。仕事で残業とかがあって、帰りが遅くなるかも知れないけど、約束するよ」


「ありがとう。お兄ちゃんだーい好き」


 ミオは天使のような微笑みを浮かべ、俺の肩に頬ずりをした。


 こんな、他の宿泊客がいっぱいな大浴場で、ところ構わずのろけちゃったわけだが、自分の発言に後悔はない。


 世界で一番、自分を好きでいてくれる人と一緒にいる事が、二人にとって何よりの幸せなんだ。


 だから、今日からはお風呂も一緒だと、そう決めた。


 お互いのタイミングがなかなか合わない時もあるかも知れないが、できるだけ、同じ時間をたくさん過ごせますように。


 縁結びの神様、これは追加のお願いなんだけど、聞いてくれてるかな。


「ねぇお兄ちゃん。あっちに泡がたくさん出てるお風呂があるよー」


「ああ、あれはジェットバスって言うんだ」


「じぇっとばす?」


「うん。お風呂の中から空気を含んだお湯が噴き出してくるから、あんな感じで泡が浮いてくるんだよ」


「そうなんだ。ボクも入ってみてもいい?」


「もちろんいいよ。行っておいで」


 ミオは温泉から上がると、頭に乗せていたタオルを腰に巻き、真っ白な湯気に包まれながら、ジェットバスの浴槽へと向かう。


 よかった、普段から肌の露出が多い子だからどうなるものかと思っていたが、羞恥心しゅうちしんは人並みにあるようだ。


 ミオは家にいる時こそ、風呂上がりには上半身裸で布面積の小さいショーツ一枚という、あられもない格好で脱衣所から出てくるんだけど、あれはきっと、俺に対して全面的に気を許しているからなんだろうな。


 もうもうと沸き立つ湯気の中、ジェットバスが取り付けられた浴槽にたどり着いたミオは、再びタオルを頭に乗せ、もう一度かけ湯をする。


 そして何かを確かめるかのように、ゆっくりと、片足ずつ浸かっていった。


「すごーい! お湯が足に当たってるよー」


 初めてのジェットバス体験に、うちの子猫ちゃんも大興奮だ。


 いい機会だし、俺も温泉はこのくらいにして、久しぶりにジェットバスに入ってみるか。


「どうだい、お湯がいっぱい出てきてるだろ?」


「うん。ちょっとくすぐったーい」


 ゴボゴボと噴き出るお湯は体のあちこちを刺激するので、まだ慣れないミオは、こそばゆそうにモジモジしている。

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