いざ、リゾートホテルへ(5)

「お兄ちゃん。ボク、また女の子だと思われたのー?」


「そうみたいだね」


「もう。何がダメなんだろ」


「まぁまぁ。せっかく、こんなに見晴らしのいい場所が取れたんだから、景色を楽しもうよ」


「うん、そうするー」


 よかった、今回は案外切り替えが早くて。


 ミオが初めて会う人に女の子と間違えられたのは、これが何回目だろうか。


 あらゆる場所で、あらゆる人に出会ってきたが、たぶん一度も男の子だと見抜かれた事はない気がする。


 ミオ自身は自覚が無いようだが、仮に、俺が初めて今のミオと出会ったとしても、きっと男の子だとは思わないだろう。


 まず美少女と見紛うくらいかわいい顔の子が、女もののフリンジハットを被っていて、さらに丈の短いショートパンツを穿き、太ももの付け根から足先までをあらわにさせていたら、それだけでもう判別ができない。


 もともと、そのショートパンツは女の子用に作られた衣料品だから、なおさら混乱を招くことは請け合いだ。


 それらを違和感なく着用しているミオは、実に女性的な魅力にあふれた、可憐なショタっ娘なのである。


 なので、今渡船を操縦している船長さんには、ミオはさしずめボーイッシュな女の子にでも見えたのだろう。


「ミオ。ちょっと揺れてるけど、気分が悪くなったりしてないかい?」


「今のとこ大丈夫だよ。酔い止めのお薬を飲んだからかな?」


「それもあるかもね。もしくは、ミオがもともと船酔いに強いのかだな」


「んー。船は初めてだから分かんないけど、このゆらゆらは好きかも」


 ミオは足をぱたぱたさせながら、流れ行く景色を眺めている。


 初めて揺られる船だから、体調を崩したらどうしようかと心配していたが、この調子なら、何事もなく島へ着きそうだ。


 俺たちがこれから泊まるリゾートホテルは、県内唯一の有人島である、佐貴沖島さきのおきしまというところにある。


 その島の稼ぎ頭は観光業の他、漁業や、年中生産・出荷される柑橘類、の売り上げが主になっているらしい。


 なぜ佐貴沖島は観光業が盛んなのかというと、俺が生まれる前に製作・放映された某映画が、撮影舞台にこの島を選んだことに端を発する。


 その映画がスマッシュヒットを飛ばした事により、ロケ地の島も脚光を浴び、日本中から聖地巡礼として、観光客がちょくちょく訪れるようになった。


 その機を逃すまいと、県議会ではさんざん議論が行われ、その結果、島の観光業に力を入れようという事に決まったのだそうだ。


 そして、世界有数の名門ホテルである、エリオット・スターホテルの誘致に成功し、島の人気は最高潮を迎える。


 普通なら、外資企業の誘致自体は、島の風土に合わないとか、景観を損ねるなどと言われて、あまり歓迎されないのかも知れない。


 ただ、ホテルはそれまでド田舎だった島の名産品を食材として買い上げ、郷土料理と積極的にコラボした食事を提供する方針を打ち出したのである。


 当初はホテルの誘致に懐疑的だった島民たちも、その〝郷土愛〟を大切にする姿勢にいたく感銘を受け、比較的すんなりと受け入ていったのだという。


 さらに、ホテルやその周辺でおこぼれに預かる観光事業の儲けにかかった税収で、各種インフラの整備は充実し、かつては砂利道だった道路もしっかりと舗装され、より住みやすくなったのだ。


 つまり佐貴沖島は、映画のおかげで一躍有名な観光地へと駆け上がり、エリオット・スターホテルの影響力によって、経済が潤うようになったのである。


 という話をミオにしてみたのだが、やれインフラだとかコラボだとか、ちょっと難しい横文字が多いので、内容を理解するのに苦労した様子だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る