いざ、リゾートホテルへ(3)

 ミオが部屋着に着替えている間に、俺はトーストと目玉焼き、そしてコーンポタージュスープを食卓に並べる。


 あいにくサラダは切らしていたので、激安だったキュウリの皮をむき、適当にスライスして皿に盛り付けておいた。


「ミオ、ご飯できてるから食べよっか」


「はーい」


 現在の時刻は午前七時を少し回ったところだ。


 事前連絡で、ホテルへのチェックインはお昼の二時に行うと決めてある。


 渡船乗り場への移動や、離島に到着してからホテルに行くまでの時間などを考慮すると、昼食は早めに取り、余裕を持って出かけた方がいいだろう。


「今日のラジオ体操、人は結構来てたかい?」


「うん。いろんな学年の子がいっぱい来てたよ。みんな暑い暑いって言ってたけど」


「はは、そっか。まぁ暑くなったのは太陽がよく照っている証拠だし、晴れになってよかったな」


 ミオは笑顔で頷きながら、出来たての目玉焼きをもぐもぐしている。


 この朝食が終わったら、昨日のうちに荷物を詰め込んだキャリーバッグの中身を、再度チェックしよう。


 今日から宿泊するホテルはかなり遠くにあるため、まず我が家から、車で三十分程の場所にある港の渡船乗り場に行く必要がある。


 そこから定期的に出ている渡船に揺られて離島へと渡るのだが、その移動時間はおよそ二十分くらいかかるらしい。


 二十分というと結構な時間に思えるんだけど、島がそれだけ離れた場所にある事と、まさか競艇のモーターボートじゃあるまいし、客を乗せたままエンジン全開でぶっ飛ばすわけにもいかないから、これは仕方ないのだろう。


 で、島の船舶ターミナルからは、送迎用のマイクロバスに乗って十五分ほど移動して、ようやくホテルにたどり着けるのである。


 かような手段でもってようやく行ける場所なため、何か一つ忘れ物をしたからといって、じゃあ車で取りに帰ります、なんて簡単な話にはならない。


 なので、持ち込む物の確認は、時間の許す限り、しつこいほどにやっておくべきなのだ。


「ミオ、リュックに忘れ物は無い?」


「うん。着替える服とショーツと、あと水着でしょ。それから日記帳に、ウサちゃんのぬいぐるみも入れたよー」


 ミオはウサちゃんパークに行った時、おみやげに買ってあげたぬいぐるみを後生ごしょう大事にしている。


 俺が家にいない時は、ぬいぐるみの事を俺だと思って抱っこして、さみしさを紛らわしているのだ。


 それほど大切な存在なので、家に置いていくわけにはいかない。旅行に行くならぬいぐるみも一緒だ。


 もはや俺たちにとって、このウサちゃんは家族も同然になっていたのである。


「俺の方はどうかなぁ。身分証明書や渡船のチケットは財布に入れてあるから大丈夫だけど、他は忘れてないよな」


 先に朝食を終えた俺は、部屋の片隅に置いてあるキャリーバッグを開け、持ち込む物の確認を行う。


 着替えの服と下着、それから濡れた体を拭くためのタオルの収納は抜かりない。


 ミオに選んでもらった俺の水着や二人分のビーチサンダル、そして魚釣りをする時に必要な偏光グラスもちゃんと二つある。


 それからスマートフォンの充電器と、もしもの時のためにモバイルバッテリーも購入しておいた。


 現地で泳ぐ時は二人とも海水パンツ一枚になるため、先日買いだめしておいた日焼け止めも二本ほど持っていく。


 あとは、ミオが渡船や送迎バスの揺れで体調を崩さないよう、酔い止めの薬も忍ばせてある。


 ……まぁこんなもんだろう。


 ホテルに各種アメニティが充実している事は分かっているので、ヒゲ剃りやシャンプー、歯磨きセットなどを持ち込む必要は無い。


 よし、これで三度目の荷物チェックもオーケーだ。


 ホテルのチェックインを済ませた後はできるだけ予定通りに行動したいし、英気を養うためにも、今のうちに少し休んでおくか。

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