憧れのウサちゃんパーク(4)

 園内マップに従って通路を歩き、ステージに近づくにつれ、さっきの乾いた牧草に加え、何かのエサであろう、草食系の匂いが若干強くなってくる。


「わぁー、ウサちゃんがいっぱいだね」


「すごいな。軽く二十羽はいるぞ」


 たどり着いた〝世界のウサギさんステージ〟では、テレビでよく見る品種の他、さまざまな大きさや毛色のウサギが、それぞれ別のケージで飼育されていた。


 いかにウサギオンリーの動物園といえど、こうして見ると実に壮観だ。


「こっちの、耳がしなしなしてる子は何ていうのかな?」


 ミオが、ケージの中で丸っこくなっている垂れ耳の小ウサギを見て聞いてきた。


 しなしなというフレーズで思わず吹き出しそうになったが、ミオはミオなりに、いたって真剣に表現をしているのだ。


 大人として、ここは笑ってはいけない。


「えーとな。プレートには〝ホーランドロップ〟って書いてあるね」


「ホーラン、ドロップ?」


「そこで切るんじゃなくて、ホーランドのロップだと思うよ」


「それってどういう意味?」


 ミオはどんどん質問をぶつけてくる。


 この子は今まさに、学びたい盛り。知的探究心が強いのはいい事だ。


「ロップは英語で〝垂れ下がる〟って事なんだけど、ホーランドが分からないな……」


「ホーランドは〝オランダ〟って意味ですよ」


 と、俺たちの後ろで作業をしていた飼育員のお姉さんが教えてくれた。


「この子は、オランダ産のロップイヤーなんです」


「ああ、なるほど! ホーランドは、英語表記の〝ホランド〟から来てるんですね」


「はい。と言っても今は、英語でホランドって呼び方は使わなくなったそうです。でも品種の名前だから、昔の名残りでそう呼ばれているんですよ」


「そうだったんですか。いやぁ勉強になるなー」


 ミオがキョトンとしている。そうだ、一人で納得している場合ではない。


「ミオ。つまりこのウサギさんはね、オランダで生まれた、耳が垂れ下がっている品種なんだよ」


「じゃあ、オランダから日本にやって来たの?」


「そうだよ。ずーっと昔に日本に来て、子供を生んで育てて、今はその子孫が日本で暮らしているのよ」


 解説を引き継いだ飼育員さんは、子孫の事や性格に関する豆知識まで、懇切丁寧に教えてくれた。


「この子はとってもおとなしくてね、撫でてもらうのが大好きな甘えんぼうさんなの」


「そうなんだ。すごくかわいいねー」


 ミオはその場にかがみ込み、ケージの隅っこで、すんすんと鼻を動かすロップイヤーをにっこりしながら眺めている。


「顔つきも丸っこくて、愛嬌があるよな」


「うんうん。このウサちゃんって、エサは何を食べるのかな?」


「ウサギは草食系の動物なんだけど、漫画とかアニメの影響で、ニンジンが好きな印象があるなぁ」


「ニンジンは、品種によって好みがありますねー。全く見向きもしない子もいますし。だからニンジンはとして与えるくらいで、基本的には牧草とペレットだけにしているんです」


 各ケージの片隅には、溢れんばかりの牧草と、深緑色で、大きなカプセルのようなペレットが詰められた食器が置かれている。


 なるほど、さっき感じた草食系のエサの匂いはペレットのものだったんだな。

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