微熱 5
アスターside
37
結局俺は、まんまとジンジャーに利用された。
あれからアリッサムに翻弄される日々だ。
俺は男の
でも自分の気持ちを少年のアリッサムに告げることはない。アリッサムに『好きだ』と告白すれば、自分が教師という職業を放棄したことになる。
だから『好きだ』という気持ちは心の中に封印すると決めた。
シェフもメイドもいない別宅で、アリッサムは公爵令息にも拘わらず俺に料理を作ってくれた。少年なのに女子力は高い。
当初は『自分のことは自分でするように』と、アリッサムの前で教師面をしていたが、俺よりも帰宅が早いアリッサムが、掃除、洗濯、炊事と家事全般をしてくれ、二人の共同生活はスムーズに進んだ。
俺はその御礼に、特別授業と称しアリッサムのために毎夜勉強を教えた。スーザン王国で最も偏差値が高い王立スーザンカレッジを目指し、アリッサムは毎夜猛勉強をしている。
俺は夜が更けると、ソワソワと落ち着かなくなる。アリッサムのシャンプーの香りが、隣に座っている俺の理性を擽り、教師の立場とかモラルとか、互いの性別とか、シャボンの泡みたいに弾き飛ばすんだ。
淫らな感情が理性を超えてしまわないように、俺は自分の理性にブレーキを踏み続ける。
俺がアリッサムに特別な感情を抱いたとしても、幸せな未来はないとわかっていたからだ。
「アスター、早くしてよ」
半乾きの髪の毛を、アリッサムは指に巻き付けて、指先でいじりながら俺を見つめる。アリッサムがこちらを向くと、膝と膝がコツンとぶつかった。
「は? な、な、何を言ってんだよ。早くしろとか、バカなこと言うな」
「えっ? さっきやった問題でわからないところがあるんだよ」
「も、問題か……。それなら早く見せろ」
俺はアリッサムに気付かれないように、「フーッ」と小さな溜息を吐く。
「明日も学校なんだ。この問題を解いたらもう寝なさい」
「アスターが退屈なら、他のことをしてもいいよ」
アリッサムは仔犬みたいにガバッと抱き着き、俺の肩に顔を近付ける。
「……ほ、他のことって何だよ」
「数学じゃなくて、英語とか」
な、なんだ、他の勉強ってことか。
俺ってどうしようもないバカだな。
なに、変な妄想してるんだよ。
「あとは一人でやれ。俺はもう寝る」
「冷たいな。わかった、一人で勉強するよ」
素直なアリッサム。
あの日以来、強引にキスをすることはない。
これでいい。
あのキスは、挨拶のキスだ。
愛情表現のキスじゃない。
もしもアリッサムが同世代の女子と恋をしたなら、俺は兄のような気持ちで、アリッサムの恋を応援するつもりだ。
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