32、救援

「2人とも……俺を、助けに来てくれたのか」


 呆然とそんな言葉を漏らす俺に、2人はどこか呆れ気味に言う。


「当然でございます! わたくし共はその為にいるのですから!」

「メイド長の仕事も、政の何やかんやも、豊穣神様の大事に比べれば些末すぎる問題ですので~」


 そういうものなのか……そういうものなんだろうな、うん。


「ていうか……2人とも、どこからきたの?」

「空からの捜索の方が効率が良いので。そして、豊穣神様を発見いたしましたのですぐさまお助けに参った次第でございます!」


「……俺の知る限り、人間は空を飛べません」

「これぞ豊穣神様への忠誠心が為せる業、ですね~」


 絶対に違う。けどまぁ、転移、なんて魔法があるんだから、空も飛べるんだろう。俺が知らないだけで。そういう事にしとこう。


「くっ……どうして、ここが……っ!?」


 と、色めき立つ獣人達がこちらを警戒しながら各々の武器を構える。


 それに答えたのは、完膚なきまでの無表情、通称メイド長モードを発動したヘンリエッタさん。


「豊穣神様のお呼びに応じ参上したまででございます」

「そういう意味じゃない! どうしてこの場所が……アキが飛ばしたマナを感知でもしない限り、こんなに早く来れるはずがない。けど、こんな距離から飛ばしたマナになんて気付けるはずがないわ!」


 ショコラのそれは、怒りや苛立ちと言うよりも、理解不能な事態に困惑しているようだった。と、2人が顔を見合わせる。


「……そうですね~。確かに私達は気付けませんでしたけど」

「わたくし達よりも圧倒的にマナに愛されている子が1人、いるのですよ」


 マナに、愛されている……? その言葉に隠された意味を読み取ったか、ショコラが悔しそうに唇を噛む。


「くそっ、相手は2人だ! まとめて叩き潰すぞお前らぁ!」


 ガトーの言葉に、及び腰だった獣人達が覇気を取り戻す。


「待て、不用意に仕掛けるな!」


 リーダーの制止に聞く耳を持たず、ガトーを含めた数人の獣人が突撃してくる。獣人の名に恥じない、俊敏な動き。が、


「仕方ありませんね~」

「豊穣神様には指一本触れさせません!」


 よし待て、2人とも。その身の丈よりも大きな得物、どっから取り出した?


「がぁぁぁあっ!」


 正直、色々動きと展開が早すぎて何が起こったのかも分からんが、結果として獣人達は少々の傷を負って地面に倒れこんだ。


 一方、ヘンリエッタさんはバトルアックスとでも呼べそうなごつい斧を、リオネスさんは日本刀っぽい見た目のでかい剣を地面に突き刺し、ふぅ、と汗をぬぐう。


「ちょっとなまってますね~」

「そうだな、どこかで鍛え直さなければ。豊穣神様を御守りするためにも!」


 その心意気には感謝するけど、多分闘いそれは2人の仕事じゃないと思います、はい。


 と、倒れこんだ獣人の中で唯一、ガトーがぐぐぐと体を起こした。


「くっそ……バケモノ、共がぁ……!」

「バケモノ? 私達が? これは面白い事を言いますね~」


「ええ。わたくし達は動きの身軽さから先行していただけ。戦闘力はさほど高くありませんよ」

「な……に……?」


 唖然とした表情で2人を見上げていたガトー。その表情が、更に強張る。


 圧倒的な力に打ちのめされても闘争心だけは失わなかった勇敢な獣人が、恐怖、そして絶望からか青白い顔で歯を震わせていた。


「ほぉら、来ましたよ? 本物のバケモノが、ね」


 溢れんばかりの輝かしいマナを身に纏い、別人のように表情を凍らせたが、空から静かに舞い降りてくる。


「…………、……レイナ」


 俺が彼女の名をぽつりと呟くと、豊穣の巫女もまたこちらを見た。

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