18、お迎え
さて、俺達は名物オヤジ(この辺りでは有名な頑固オヤジらしい)を皮切りに、近場のスポットを制覇していった。
3人からすれば見慣れているありふれた光景なのだろうけど、ファンタジーに染まり切っていない俺からすると面白い事の連続で、子供のようにはしゃいでしまった。挙句にリュートに呆れられた。
それが一段落ついた俺達は、とりあえずギルドの辺りまで戻り、
「はい、アキ見つけた。ちょっと隠れるの下手過ぎない?」
「う、うるさい。仕方ないだろ、そっちと違って俺は土地勘ゼロなんだからな」
何故か、かくれんぼに興じていた。発案者はイリーネさんだ。
「これ以上豊穣神様を連れ回すのは恐れ多すぎます! なので、ちょっとこの辺りでかくれんぼでもして遊びましょう!」
「えー、かくれんぼとかガキっぽいよ、姉ちゃん」
「黙らっしゃい! この中で一番のガキはあんたでしょバカリュート!」
みたいな。まぁ、こういう他愛ない事で遊ぶってのも良いもんだ。俺は割と楽しめてる。
鬼であるリュートは真っ先に俺を見つけた後、数分後にイリーネさんを見つけ出した。けど、レイナだけがどうにも見つからないらしい。
「もう降参したら? リュート」
「ちぇっ、相変わらずレイナ姉ちゃんはこういうの強いな」
唇を尖らせたリュートは、手に光を纏わせる。マナだ。
「へぇ、やっぱリュートも魔法が使えるんだな?」
「え? いや、まだ何も使ってないけど」
「いやでも、手にマナを纏わせてるから何か魔法を使うのかな、って」
「さすが豊穣神様ですね。巫女様と同じようにマナが目に見えるのですか」
イリーネさんが感心したように言う。マナが見えるってのは、この世界ではかなり特殊な事らしい。何となく嬉しいな。
「で、何の魔法を使おうとしてるんだ?」
「簡単に言えば、あらかじめ目印を付けておいた離れた相手に合図を送って、こっちの居場所を教える魔法、かな。こういう時の為にレイナ姉ちゃんに目印を付けておいたから、合図を送って降参したって伝えるんだ」
合図、か。ヘンリエッタさんがレイナを呼ぶときに使ってた、相手の近くで音が鳴るアレと同じかな?
魔法を発動するリュート。あとはレイナが来るのを待つだけだ。俺達は集合場所であるギルドの前に移動し始
「ぬおぁっ!?」
めた矢先、既視感のある光景が俺の眼前に降ってきた。
「あ、アキサマ! お待たせしました!」
「お、おう」
何度見ても慣れないな、ワープの魔法は。
リュートがかくれんぼの敗北を伝える為に合図の魔法を送ったことを説明すると、レイナの顔がみるみる赤くなっていく。
「あ、あぅぅ……すみません。最近ボクに合図が来る時って、大体ヘンリエッタさんに呼ばれてアキサマへのご奉仕がある時なので、つい反射的に……」
「あぁいや、まぁ謝られても困るんだけど」
強いて言うなら、奉仕って言わないでください。俺は用事があるからヘンリエッタさんに呼んでもらってるだけで、意味合いがまったく違う。
それはさておき、合図か。
「それ、いいなぁ。俺も魔法が使えるようになったことだし、教えてくれよリュート。見た感じ、難しい魔法じゃないだろ?」
「うんまぁ、初歩の初歩だよ。あらかじめ目印を付けとく必要があるから使いどころが限定されるけど」
リュートから少し説明を受けるだけで、合図の魔法については十分理解できた。それと一緒に、目印をどうつけるかも教えてもらう。
「ふむふむ……なるほどな。よし、マスターした」
さすがは初歩の初歩。超簡単じゃねぇか。
「って事で、レイナ」
「はい?」
手持無沙汰にしてたレイナがこちらに振り向く。その頭上辺りに目掛けて目印を仕掛けてみる。
「はぇ? アキサマ、これって」
「よし、テストテスト」
俺は覚えたての合図の魔法を炸裂させた。
「うひゃい!?」
と、レイナが飛び上がる。傍で見ている分にはそこまで大きな音が鳴ったようには聞こえなかったけど、合図を送られた側は違うのだろうか。
「大丈夫か? レイナ」
「だ、大丈夫、ですけどぉ……もうちょっと、音を小さくして、貰えたらなぁ、って」
「そか、悪いな。そこは後々調整していこう」
俺はレイナに笑いかけた。
「けど、これで俺からレイナに合図を送れる。もし俺がヤバい目に遭っても、レイナに合図を送れば飛んできてくれるんだろ?」
「は、はい! 勿論です!」
「この魔法なら居場所も伝えられるから便利だよ。けどアキ、距離が離れすぎたら合図が届かないから過信は出来ないと思う」
「ま、あくまで緊急用だ。使わずに済むのが一番だ」
ていうか、よく考えたらさっきのかくれんぼってどうなんだ。
「えへへ……」
と、レイナがにまにまと笑いだす。
「ボクとアキサマ、お互いに目印を付けちゃいました。お揃いで嬉しいです」
「そりゃ何より。さて、そろそろ宮殿に帰るか。もう日も暮れかけてきてるし、さすがにバレかねない」
「はい、そうでございますね」
ぎくり。俺は思わず動きを止める。
振り返ると、こつこつと靴音を響かせてこちらに歩み寄るヘンリエッタさんが、無表情で俺を見ていた。
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