4、異世界にトラブルは付き物
周りを見回しても、張り紙とかに書かれているのはどう見ても『地球上』には存在していないであろう文字ばかり。何故か、今の俺にはその内容が分かるが。
いや、それよりもまずは唸り続けるお姉さんを誤魔化さないと。
「えぇと、それはですね……俺の故郷でだけ使われてる特殊な文字で……」
うん、別に嘘じゃあない。いや、よく考えたら漢字は中国発祥か? そんな細けぇこたぁいいんだよ今は。
「もしや、これは……しょ、少々お待ちください!」
俺の言い訳を聞いてるのかいないのか。なんか1人で頷いたお姉さんは奥の方に引っ込んでしまった。
「アキ、なんかやらかしたのかぁ?」
「別にそんな事は……」
いやまぁ、ここが異世界だって事を忘れてどや顔で漢字を披露したのは、確かにやらかし案件だとは思うけど。
これって、逃げた方がいいのかな。別に悪い事をしたわけじゃないから堂々としてていい気もするけど、違う場所の冒険者ギルドで登録し直した方が話がこじれないような気もする。
「お、お待たせしました!」
と、受付のお姉さん、帰還。
「えっと、あと少しお待ちいただけますか? 上の者がお客様に会いたいという事で、こちらに向かっていますので」
「あ、その、はい」
俺が危惧した通り、話がこじれてませんかね?
かといって、今から逃げだしたら怪しさマックスだし、どうしたもんかな……。
「す、すみません……えぇと、椅子の座り心地はいかがですか? ご不満があれば、もっと良い椅子と取り替えますが……?」
「へ? いや、別に大丈夫ですけど……」
唐突なお姉さんの言葉に、違和感を覚えた。
さっきまでは、1人のお客様に対する言葉遣いだったように思える。けれど今のは、もっと違う〝何か〟に向けた言葉のような……?
「あ」
と、考え込む俺の前でお姉さんが素っ頓狂な声を上げた。その視線は、俺の頭上に注がれている。
そこにはいつのまにか、光の玉みたいなものが現れていて。
「へ? ぐぇっ!?」
見上げた俺は、次の瞬間には光の玉の中から現れた何かに踏み潰されていた。けど、予想していたよりは痛みもなく、むしろ柔らかい。
「ほ、豊穣の巫女レイナ、ただいま参りました!」
と、椅子を蹴散らしながら地面に叩きつけられた俺の頭上で、幼く可愛らしい少女っぽい声が響く。
「お、お疲れ様です巫女様……すぐに来る、とは仰っていましたけど、まさか転移魔法で来られるとは。神都にいらっしゃるんでしたら歩いてこられるでしょうに」
「だ、だって、あんな事を聞かされたら1分1秒でも早く来るべきでしょう! タイムイズマネーです!」
おお、異世界にも
「そ、それで、お話にあった方はどちらに……?」
緊張を孕んだ少女の声。お姉さんが苦笑したのが分かった。
「えぇと、言いにくいのですが……巫女様、下をご覧ください」
「え? ひゃっ、どどどどーしてボクの足元に人が!?」
その言葉、そっくり返しましょう。どどどどーして俺の頭上から人が!?
ようやく俺の上からどいてくれた少女は、体を起こす俺の前で平身低頭、見事な土下座を披露しながら声を震わせた。
「ご、ごごごごごごめんなさいハーヴェストサマ! お怪我はありませんかぁぁ!!?」
「えっと、はい、怪我は別に……はい?」
今、なんか変な事言ったなこの子。
「すみません、ハーヴェスト……って何ですか?」
「あ、はい。豊穣神、って意味です。つまりあなたは豊穣神サマなのです!」
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