6、宮殿
冒険者ギルドで光に包まれた数秒後。
俺はギルドとは似ても似つかぬ、豪奢な建物の一室にいた。
「ここは……」
「宮殿です! 昔は王様の住むお城だったんですけど、王制が廃止された後は政治のお仕事とかをする為に色々改築されて今の形になったらしいです。そして今この瞬間から、豊穣神サマのお住まいになります!」
俺の背後にいたレイナさんがどこか誇らしげに言う。これ見よがしに胸を逸らすので目のやり場に困るんだが。
彼女、身長はだいたい150センチぐらいのかなり小柄で、長い茶髪を三つ編みに編み込んで肩から流している。
おっとりとした顔立ちも体格に見合った可愛らしさ。健全な男子たる俺にはかなり眩しいんだけど、それと反比例したかのように胸がでかくて余計に直視できない。
そういや、獣人のお姉さんも受付のお姉さんも胸がでかかったな……異世界の人間はみんなこんななのか。いや、嬉しいかそうじゃないかで言えば嬉しいんだが、セクハラ容疑を掛けられるリスクを考えるとそうも言っていられないような。
てか、改めて見ると変わった服装だな……いや、俺からすれば馴染みのある服とも言えるんだけど。
「? 豊穣神サマ、ボクの服、どこかおかしいですか?」
ヤべぇ、女の子の体をガン見してた事がバレた、早速セクハラの危機だ。いえ、別に俺は胸ばかり見てたわけじゃなくてただ珍しい服だなと純粋な好奇心が掻き立てられただけで
「ほ、豊穣神サマ!? お顔がとっても赤いです、まさかお風邪を召されて……! いえ、もしかすると賊がどこかから豊穣神サマに呪いを……た、大変! すぐに回復魔法をお掛けします!」
何故顔が赤いだけでここまで発想がぶっ飛ぶのだろう。勘弁してください、ただ男の煩悩に翻弄されただけなんです。
などと説明するのも憚られ、大人しく回復魔法とやらを受ける。優しい光に包まれて、動揺していた心も少しだけ落ち着いてきた。
「良かった……元気になられたようですね」
はい、主に俺のメンタルが、ですが。
「……近くに賊はいないようです。豊穣神サマに呪いを掛けてすぐに逃亡したのかもしれません。すぐに追っ手を差し向けますね!」
「あ、いえ、お構いなく」
俺が顔を赤くしただけだってのに、事を大きくしないでください、レイナさん。そんな賊は最初からどこにもいません。
いかん、気が付けばペースを握られてる。豊穣神とか宮殿とか、全力でツッコみたい事は山ほどあるが、今は彼女の気を逸らさなければ。
「そ、それより、レイナさんの服なんですけど」
「へ? や、やっぱりボクの服、変ですか……!?」
「いや、そうじゃなくて……その服、俺の故郷にある〝巫女服〟っぽくて、偶然だなぁって思っただけです」
日本での暮らしでも、本物の巫女服なんてそうそうお目に掛かれるものではないけど、フィクションとか漫画とかで目にする事は結構あった。白衣と緋袴……だっけか? レイナさんの纏うそれと限りなく似ている……気がする。
一方、俺の言葉がまったく理解できていないであろうレイナさんは、
「あはは、それはそうですよ。だってこの服、その巫女服を参考にして作られてるんですから!」
あれ? 普通に理解されてる?
「ボクの『豊穣の巫女』っていう役職も、そこから来てるんですよ! それまでは『豊穣の招き手』っていう名前だったそうです!」
「はぁ、服の名前が先なんですね。でも、参考にしてっていうのは……?」
「それは先代の豊穣神サマですね。先代サマの記憶の中にある巫女服を参考に、頑張って再現したんです!」
先代の、豊穣神……? 神様の先代って何だ?
それを聞こうとする俺の前で、レイナさんがくすりと笑みを漏らした。
「やっぱり、あなたは豊穣神サマで間違いないです。今ので確信しました」
「確信って、どういう……?」
「それは」
「レイナ! 豊穣神様が見つかったというのは本当か!?」
と、たくさんの足音が部屋になだれ込んできた。……やべぇ、一ミリも話が進んでねぇ気がする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます