第八殺母親の牙、何番目かの怨念
勝田咲は真夜中の公園のベンチに座って煙草を吸って、夜空を見ていた、その先にあるのはプレセペ星団と呼ばれるもので月のない晴れた夜には裸眼でもぼんやり見え、目の良い者ならいくつか星を認められる、中国では「
彼の袖には赤い染みがあった、DNA鑑定すればそれが一人だけではないと分かる。
月下なき真夜中に煌めく地上の一つの星、それは流星刀と呼ばれるモノで隕石から鍛練されて出来る刀である。
「お久しぶりね、勝田咲」
「どちら様でしたか?何分命を狙われるのに越したことはないので」
「スサノオ覚醒したんだってね、あれ私の娘なの、何してくれたんだこのボケが」
「あー、鶴上……ふむ下の名前が浮かびませんな、私は性差別をしないのでとりあえずお姉さんと呼びましょうか?」
「お母さんで良いわ、私はね、実の娘をこういう世界に巻き込みたくなかったよ、魔人にならないって聞いただけで嬉しかった」
「現代っ子なら嬉しいはずですよ」
「どこが?制御しきれない闇の力を与えられて苦しむ我が子を見て親が思うのは『病気みたいだから治って欲しい』よ」
「子供の主体性の話をしてもそんな能書きはいいでしょう、私の本音はあぁまたかですよ、あなたのような人間、蟻のようにました、それこそまぁ巣でもあるように」
「禍津日神、人が悪や穢れに対峙したらそれに怒りの反応を示す源、スサノオの分霊でもある、何故ならそれは神が人を監視するモノ、『光の因子』と呼ばれるモノよ」
「三尸虫とも言う、別にそれはいいんですよ、逆に『闇の因子』は黒鳳凰の雛という虫だがそんな話を広げても今は自分語りしたいだけになってしまう、で?私をどうしても殺したいので?」
「えぇそうね、『お家潰し』の勝田咲」
☣️☣️
勝田咲は生まれもっての悪なのかは未だに定かだが分かっているのは彼は自分の心に響く思いの強さを求めている、愛、憎しみでもいい、それが彼の心を脈動させて欲しい。
彼は幼少期、周りの人間には興味が生まれなかった、野生児ではない、人見知りですらない、あるのは隔たりというモノだった、自分は生まれもって周りの人間とは格が違う、そんな傲岸不遜に己の王の器を自覚していた。
凡庸からカリスマ性は発生する、共感されるにはありきたりな人間性が必要だ、エリートやインテリの特異的な人間性には共感されない、俗であるほど人間は親しみを感じる、暴言でも社会への不満を熱く語るならば良い、優れたモノがないことこそ優れている。
彼にそういうモノを正しく使おうとはしなかった、あまりにも他者を見下しすぎたため、気まぐれでも起こらないと慈しむという発想は生まれなかった、何より彼は人間というのを熟知して虐げることの楽しさというのを自覚していた、それが何よりの悲劇であった、
スクールカースト上位者の影からの支配、虐めの先導、不良グループと交際して裏番長、犯罪組織を乱立させてそれらの真の長になる、それが彼の子供としての娯楽だった。
そんな虐政をすれば反発、反逆にあうのは当然至極であろう、彼はそれで自分が虐げたがる存在と家族一同に思われてしまった、それが何よりも屈辱で家族愛を全否定した。
同時に下の者達の憎しみを触れて、その牙が自分に届きそうで決して届かないと思った、自分という害獣を駆除する狩人がいない。
自分の怪物性に気づいた彼はそれを家族の前では一切見せなかった、猫を被るというやつだ、だが彼は自分を止めてくれるモノを求めた、その結果、彼は劇場の支配者になった。
殺人鬼になったとも言う。
平凡な毎日を送るカップル、世界を救って日常に戻ったカップル、裏家業をやめて普通の毎日を送るカップル、異形同士のレズカップル、狼男同士のゲイカップル、擬似的な親子のような師匠と弟子、超越した力を持つが人並みの生活を送る夫婦、そういう者達の仲を死別という形で引き裂いた、そしてその惨劇から復讐劇が始まるのは当然だ、復讐劇は何度も
そうして呼ばれたのが『お家潰し』という異名である、海外では『マジシャンズ・ジェノサイダー』、『サイキッカーキラー』、『凶獣』、『意味なき狩人』と呼ばれている。
そうなった理由はただ一つだけであった。
☣️☣️
「今回のはあなた方鶴上家の仲を引き裂こうという事ではありません、旧魔人王が揃えておかないといけない事情があったのです」
「それなら私でもよかったんじゃないかしら?私もスサノオに覚醒しているんだし」
「……そうでしたっけ?」
「そうよ、だから貴方を殺せるのよミクラトンテクーテリ」
風が巻きおこる、それはコンクリートの地面に触れるとそれを朽ちさせた、公園の遊具、隣の林、それまで綻びさせて壊していく。
「スサノオは根の国の王でもある、だから死の力を私も発することが出来るのよ?」
流星刀が死の力に纏わりつかれ黒ずむ。
それに対して勝田咲はーーー
「冥!死!贄!邪!骸!殺!厄!屍の山を築け、我が
と、叫んで、姿を変えた。
頭飾りは梟の羽と紙の旗で飾られて、人間の目玉の首飾りを着けている、ダーク・ファンタジーで出てくるノーライフキング、ゾンビの中のゾンビ、ネクロマンサーの成れの果て全身骸骨でありながら動くリッチと化した。
「この骸野郎がぁ!」
流星刀の刺突は疾風怒濤であり、刹那の領域に達した、咆哮一つに興奮したあまり、そして何より不死身である油断ゆえに殺された、しかし、それは予定調和なのであった。
「冥王は死んだ、では『
気、それは単なる気、怒気でも殺気でも邪気でもない、気功学における基礎の気、生命力の塊であり、中国の神秘の一つでもある。
それが勝田咲の体から溢れていた。
「やっと生き返れた………」
「……な、なんなんだ!それはなんだ!」
鶴上のお母さんが驚き足が竦んだ。
「最強に必要なのは膨大なエネルギーと特上の格闘戦のスキルだけでいい、ラゴンボ好きだからそうなっただけなんだかな……」
「ラゴンボ?」
「属性すらいらないな、圧倒的という言葉、その骨身に染み渡らせてあげます」
勝田咲はアポートを発動、それで鶴上のお母さんで引き寄せられる、頭を鷲掴みされる。
「これは本来、前座で下賜をして自分と対等になるまで気を分け与えるだけなんですよね、自分と対等になれるまで気を分け与えた者はほぼいない、大体が途中で許容量をオーバーして破裂して死んでいったんですよ」
「……そう、貴方、恋人が……がががががががががががーあーあーあぁあ頭がああああ壊れる!壊れる!いだだだだっ、ぱっ!」
彼の本質をつく発言したと思ったらすぐに脳漿が飛び散った亡骸が生まれてしまった。
「あぁ、やっぱりこうなりましたか、これに今の旧魔人王で耐えられたのはベルゼブブとサタナエルだけです、昔のスサノオならいけたのに、最近、近親相姦がおざなりだったので?今度はあなたの娘で試させて貰います、どうやら自分の子供の恋人らしいのでね」
そう死体に語りかけて彼はベンチから立ち上がり、公園からどこかへ去っていった。
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